2-17
「兄さん、このままじゃ膠着状態になる……!胸の石版を狙うしかないよ!」
「わかってる……!だが、あの高さに届くには……!」
ゴーレムの胸部に埋め込まれた石版は、優に三メートル以上の高さにある。レオンハルトが剣を振り上げても、到底届く位置ではなかった。
「あたしが跳び蹴りで……いや、無理ね。あの硬さじゃ足が砕けるわ」
シャノンが悔しそうに唸る。
「……俺が影から忍び寄って……」
ミカゲが呟きかけた、その時。
まふゆの頭の中で、何かが閃いた。
さっき湖で、リリアが言っていた言葉。『ヒーラーの役割はパーティーの生命線』。
自分は戦えない。けれど、支援なら。
「あ、あの……!」
まふゆが思わず声を上げた。皆の視線が一斉にこちらに集まる。
緊張で喉が震えたが、まふゆは必死に言葉を紡いだ。
「うち、白魔術で、体を軽くする魔法、使えます……!レオンハルトさんにかけたら、高く跳べるかもしれへん……!」
まふゆの言葉に、セリウスの瞳がぱっと輝いた。
「それだ……!まふゆ、できるかい?」
「や、やってみます……!」
まふゆは震える手で杖を構える。
こんな実戦で魔術を使うのは初めてだ。けれど、みんなが頑張ってる。自分だけ、後ろで震えてるわけにはいかない。
「レオンハルトさん……!」
「おう、頼んだぜ、まふゆ!」
レオンハルトがゴーレムの前に立ち、剣を構える。その背中は、今まで以上に頼もしく見えた。
まふゆは深く息を吸い込み、杖を天にかざす。
「光よ、風よ……この者に、天翔ける翼を……『ライト・フェザー』……!!」
柔らかな白い光が杖の先端から溢れ出し、レオンハルトの体を優しく包み込んだ。
レオンハルトの体が、ふわりと軽くなる。まるで羽根のように。
「おおっ……!これは……!」
「今だ、兄さん!ミカゲ、シャノン、注意を引きつけて!」
セリウスの指示に、ミカゲとシャノンが同時に動く。
二人はゴーレムの左右から同時に攻撃を仕掛け、その注意を完全に引きつけた。
「行くぜええええっ!!」
レオンハルトが地面を蹴る。
まふゆの魔術によって軽くなった体は、まるで重力を無視したかのように、高く、高く跳躍した。
三メートル、四メートル──ゴーレムの胸部と同じ高さまで。
「そこだああああっ!!!!」
レオンハルトの剣が、石版目掛けて真っ直ぐに振り下ろされる。
ゴオォォンッ……!!
鈍い音と共に、胸部に埋め込まれていた石版が、ゴーレムの体から剥がれ落ちた。
その瞬間──
……ゴーレムは、まるで糸の切れた人形のように、ガラガラと崩れ落ちていった。
岩の体が音を立てて崩壊し、地面に散らばる。
「……やった……!」
まふゆは思わず、その場にへたり込んだ。
初めての実戦。怖かった。でも、みんなと一緒に、乗り越えることができた。
「まふゆん……!すっごい、すっ……ごかったよー!!」
リリアが駆け寄ってきて、まふゆにぎゅっと抱きついた。その興奮した声が、広間に響く。
「ああ、まふゆのおかげで勝てたぜ!さすがだな!」
レオンハルトが満面の笑みで、地面に転がった石版を拾い上げる。三つ目、そして最後の石版だ。
「まふゆ、君の判断が的確だった。素晴らしいよ」
セリウスも穏やかに微笑みながら、まふゆの頭を優しく撫でる。
「ふん……まあ、悪くなかったわね」
シャノンもそっぽを向きながらも、その口元はわずかに緩んでいた。
そして、ミカゲが静かにまふゆの前にしゃがみ込む。
その無表情の瞳が、まっすぐにまふゆを見つめていた。
「……よくやった」
短い言葉。けれど、その声には確かな称賛と、そして何か熱いものが込められていた。
ミカゲがそっと、まふゆの頬に触れる。
「……怖かっただろう。でも、あんたは逃げなかった」
その手の温もりが、まふゆの心を優しく包み込む。
怖かった。本当に怖かった。けれど、この温かい手が、この仲間たちがいたから、乗り越えられた。
「……うん。みんな、おったから……」
まふゆは涙目になりながらも、笑顔で答えた。
初めての冒険。初めての実戦。そして、初めて感じた、仲間と共に戦う喜び。
三つの石版を手に入れた六人は、地上へと続く階段を、肩を並べて登り始めた。
夕日が差し込む出口が、もうすぐそこに見えていた。




