2-14
(大丈夫って言うたけど、言うたけど……!やっぱ暗いのあかん……!!)
皆の後に続いて、ひんやりとした石の階段を一歩、また一歩と降りていく。
さっきまでの太陽の光が嘘のように、穴の中は完全な暗闇に包まれていた。聞こえるのは、自分たちの足音と、壁を伝う水滴の音だけ。
先を行く仲間たちの姿さえ、闇に溶けて見えなくなってしまいそうだ。
大丈夫、と口では言った。
ここで怖がって、みんなの足手まといになるわけにはいかない。
そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、心臓はぎゅうっと縮こまって、勝手に早鐘を打ち始める。
(こ、怖い……暗いのも、狭いのも、苦手やのに……)
桜の国にいた頃の記憶はないけれど、この感覚は体に染み付いている。閉ざされた暗闇は、まふゆの心の奥底にある、名前のない恐怖を呼び覚ます。
背後からついてくるリリアとシャノンの気配だけが、今は唯一の心の支えだった。
不意に、前のセリウスが足を止めた。それに気づかず、まふゆは彼の背中にこつんとぶつかってしまう。
「ひゃっ!?」
「っと、ごめん、まふゆ。大丈夫かい?」
セリウスが振り返り、気遣わしげに声をかけてくれる。彼の白銀の髪が、わずかな光も届かないこの闇の中ですら、ぼんやりと白く浮き上がって見えた。
「大丈夫……ごめんなさい、前見てへんかった……」
「いや、僕の方こそ急に止まってすまない。兄さんが火を点けてくれるようだ」
セリウスが指し示した先で、ぼっ、と小さな炎が生まれた。レオンハルトが懐から取り出した魔道具のランプに火を灯したのだ。
オレンジ色の暖かい光が、じわじわと暗闇を押し返していく。
壁にはびっしりと苔が生え、床は濡れて滑りやすくなっているのが見えた。通路はずっと奥まで、下り坂になって続いている。
「ふぅ……これで少しはマシになったな」
ランプの光に照らされたレオンハルトの顔を見て、まふゆはようやく息をつくことができた。
けれど、安堵したのも束の間、ランプの光が生み出した濃い影が、壁の向こうで何か得体の知れないものが蠢いているように見えて、また別の恐怖を煽ってくる。
(あかん、あかん……!しっかりせな……!)
まふゆは自分の両腕をぎゅっと抱きしめる。震えを隠そうとしても、指先は氷のように冷たいままだった。
その時、不意に背後から伸びてきた手が、まふゆの冷たい手をそっと包み込んだ。
「……!」
驚いて振り返ると、そこにはミカゲが立っていた。
いつの間に後ろに来ていたのか。ランプの光が届きにくい影の中に立つ彼は、表情まではっきりと見えない。
けれど、彼の手は驚くほど温かかった。
「……震えてる」
静かな、事実だけを告げる声。
彼の大きな手が、まふゆの小さな手をすっぽりと覆う。その確かな体温と、力強い感触が、冷え切った指先からじんわりと心まで温めてくれるようだった。
「ミカゲ、さん……」
「……離すな」
それだけ言うと、ミカゲはまふゆの手を引いて、再び歩き出す。
有無を言わさない、けれど決して乱暴ではない引力。繋がれた手を通して伝わってくる安心感に、さっきまで暴れていた心臓が、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
(……あったかい……)
暗闇はまだ怖い。
でも、この温かい手がそばにある限り、きっと大丈夫。
まふゆはもう一度前を向き、繋がれた手をぎゅっと握り返した。彼の背中だけを見つめていれば、もう何も怖くはなかった。




