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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十九話 はじめての臨海学校-終幕-
236/237

19-5




穏やかな波の音、仲間たちの楽しげな声、肌を撫でる潮風。

その全てが、まふゆの心を優しく満たしていく。


シャノンやリリアとの何気ない会話を終え、まふゆは再び、少し離れた場所にいる二人に視線を向けた。


波打ち際で、アリスが小さなヤドカリを見つけてしゃがみ込んでいる。

その数歩後ろ。ミカゲはいつものように警戒を解かず周囲を窺っているが、その視線は明らかに、アリスの小さな背中に頻繁に注がれていた。


アリスがヤドカリを指でつつこうとして、驚いて引っ込む様子に、ミカゲの口元がほんのわずかに、本当に誰にも気づかれないほど微かに緩んだのを、まふゆは見逃さなかった。


(ミカゲとアリスさんの仲も、だいぶ良くなった気がするなあ……)


初めの頃は、ただの「監視対象」として、あるいはまふゆに近づくための「障害物」として、アリスを見ていたように感じられた。


けれど、昨日の出来事は、二人の関係性を大きく変えたのかもしれない。


自らの身を顧みず、暴走するほどの力でまふゆを守ろうとしたアリス。

そして、そのアリス自身が壊れてしまわないように、自らの魔力を注ぎ込み、守りきったミカゲ。




「……まふゆ」


アリスが、拾った小さなヤドカリを手のひらに乗せて、こちらへ駆け寄ってくる。

その背後から、ミカゲもまた、静かな足取りでついてきていた。


「見て。うごいてる」

「ほんまや、かわいいヤドカリさんやね」


まふゆが微笑んでアリスの頭を撫でると、アリスは満足そうに目を細めた。そして、その小さなヤドカリを、今度は隣に立つミカゲの前に差し出した。


「ミカゲも、見て」


ミカゲは一瞬、戸惑うように自分の手とアリスの顔を見比べる。

彼の大きな、古傷の残る武骨な手が、おずおずと差し出された。アリスはこてん、とミカゲの掌にヤドカリを乗せる。


「……ああ」


ミカゲは短く応えると、自分の手のひらの上で動く小さな命を、ただ静かに見つめていた。

その横顔は、いつもの冷徹な暗殺者のそれとはどこか違う、穏やかな空気をまとっているように見えた。


「二人とも、ほんまに無事でよかった」


まふゆが心からの安堵を込めて呟くと、アリスはこくりと頷き、ミカゲはふい、と視線を逸らした。

その仕草が照れ隠しのように見えて、まふゆの胸に温かいものが込み上げてくる。




この臨海学校で、多くのものを失いかけた。

けれど、その代わりに得たものは、きっとそれ以上に大きく、かけがえのないものなのだろう。


まふゆは、自分の両隣に立つ、大小の二人を愛おしく見つめながら、静かにそう確信していた。




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