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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十九話 はじめての臨海学校-終幕-
234/237

19-3




ミカゲの普段からは想像もつかない必死な様子に、まふゆは言葉を失くしていた。


彼がこれほど感情を露わにするところを、今まで一度も見たことがなかったからだ。

自分に向けられる、焼け付くような安堵の眼差しに、胸の奥が不思議な熱を帯びる。


「……ミカゲ……」


何かを言わなければ。心配をかけたことへの謝罪か、無事を喜ぶ言葉か。

まふゆが戸惑いながら口を開きかけた、その時だった。




「…………ん」


すぐ隣のベッドから、小さな衣擦れの音と共に、か細い声が聞こえた。

その場にいた全員の視線が、一斉にそちらへと注がれる。


ミカゲの背後、白いシーツの海に沈んでいた小さな少女──アリスが、ゆっくりと瞼を持ち上げていた。


虚ろな瞳が数回瞬き、保健室の天井をぼんやりと映す。やがて、その焦点が徐々に結ばれていき、すぐ傍にいる黒い影の存在を捉えた。


「……ミカゲ……?」


まだ眠りから抜け出せないような、途切れ途切れの声。

アリスはゆっくりと上半身を起こそうとするが、魔力を使い果たした体は思うように動かない。その小さな体がぐらりと傾いだ。


「危ない!」


今までまふゆの前に膝をついていたミカゲが、電光石火の速さで振り返り、倒れそうになるアリスの体を背中から支える。その動きには、一分の隙もなかった。


「……あんたも、目が覚めたか」


ミカゲが低く呟く。その声色は、先ほどまでまふゆに向けていたものとは違い、いつもの平坦な響きに戻っていた。

しかし、アリスを支えるその手つきは、驚くほどに優しい。


アリスはミカゲの腕に体を預けたまま、その視線をゆっくりと動かした。そして、ベッドの上で自分を心配そうに見つめている、白い髪の少女の姿を見つける。


「…………まふゆ」


その名前を呼ぶ声は、先ほどよりも少しだけはっきりとしていた。

アリスの瞳が、まっすぐにまふゆを射抜く。怪我はないか、無事なのかと、言葉にならない問いを発しているようだった。




「アリスさん……!よかった……ほんまに、よかった……!」


まふゆの瞳から、堪えていた涙が一筋、ぽろりとこぼれ落ちた。


安堵と、言葉にできない愛おしさが胸いっぱいに広がり、目の前の光景を滲ませていく。

失われかけた二つの命が、今、確かにここにある。その事実だけで、十分だった。




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