19-3
ミカゲの普段からは想像もつかない必死な様子に、まふゆは言葉を失くしていた。
彼がこれほど感情を露わにするところを、今まで一度も見たことがなかったからだ。
自分に向けられる、焼け付くような安堵の眼差しに、胸の奥が不思議な熱を帯びる。
「……ミカゲ……」
何かを言わなければ。心配をかけたことへの謝罪か、無事を喜ぶ言葉か。
まふゆが戸惑いながら口を開きかけた、その時だった。
「…………ん」
すぐ隣のベッドから、小さな衣擦れの音と共に、か細い声が聞こえた。
その場にいた全員の視線が、一斉にそちらへと注がれる。
ミカゲの背後、白いシーツの海に沈んでいた小さな少女──アリスが、ゆっくりと瞼を持ち上げていた。
虚ろな瞳が数回瞬き、保健室の天井をぼんやりと映す。やがて、その焦点が徐々に結ばれていき、すぐ傍にいる黒い影の存在を捉えた。
「……ミカゲ……?」
まだ眠りから抜け出せないような、途切れ途切れの声。
アリスはゆっくりと上半身を起こそうとするが、魔力を使い果たした体は思うように動かない。その小さな体がぐらりと傾いだ。
「危ない!」
今までまふゆの前に膝をついていたミカゲが、電光石火の速さで振り返り、倒れそうになるアリスの体を背中から支える。その動きには、一分の隙もなかった。
「……あんたも、目が覚めたか」
ミカゲが低く呟く。その声色は、先ほどまでまふゆに向けていたものとは違い、いつもの平坦な響きに戻っていた。
しかし、アリスを支えるその手つきは、驚くほどに優しい。
アリスはミカゲの腕に体を預けたまま、その視線をゆっくりと動かした。そして、ベッドの上で自分を心配そうに見つめている、白い髪の少女の姿を見つける。
「…………まふゆ」
その名前を呼ぶ声は、先ほどよりも少しだけはっきりとしていた。
アリスの瞳が、まっすぐにまふゆを射抜く。怪我はないか、無事なのかと、言葉にならない問いを発しているようだった。
「アリスさん……!よかった……ほんまに、よかった……!」
まふゆの瞳から、堪えていた涙が一筋、ぽろりとこぼれ落ちた。
安堵と、言葉にできない愛おしさが胸いっぱいに広がり、目の前の光景を滲ませていく。
失われかけた二つの命が、今、確かにここにある。その事実だけで、十分だった。




