19-1
柔らかなシーツの感触と、消毒薬の混じった清潔な匂い。
重い瞼をゆっくりと持ち上げると、見慣れない白い天井がぼんやりと滲んで見えた。
こめかみがズキリと痛み、失っていた間の記憶が、断片的に蘇ってくる。
巨大な鋏、砕け散りそうになる聖域、そして──背後で放たれた、世界を呑み込むかのような漆黒の光。
「ん、ん……」
無意識に声が漏れた。
上半身を起こすと、体中が鉛のように重い。それでも、確かめなければならないことがあった。
「ここは……?」
まふゆはキョロキョロと辺りを見回す。
そこは医務室のような場所だった。カーテンで仕切られたベッドの上で、自分は学園指定の寝間着に着替えさせられている。
「アリスさん!みんなは!?」
そうだ、アリスはどうなったのか。あのすさまじい力を放って。仲間たちは無事なのか。
焦燥感に駆られ、ベッドから降りようとした、その時。
「起きたのか、まふゆ」
カーテンが静かに開かれ、聞き慣れた、しかし今は少しだけ疲労の色を滲ませた声がした。
そこに立っていたのは、腕を組んだレオンハルトだった。彼の隣には、心配そうにこちらを覗き込むセリウスの姿もある。
「レオンハルト……セリウス……!二人とも、無事やったんやね……よかった……」
安堵から、体の力が抜ける。
二人の顔に怪我は見当たらない。
「お前が一番危なかったんだぞ。夜まで目を覚まさなかったんだからな」
レオンハルトが呆れたように、けれどどこか安心したように言う。
「僕たちが無事なのは、君と……アリスのおかげだ。本当に、ありがとう」
セリウスが心からの感謝を口にした。
「アリスさん!アリスさんは!?」
まふゆは勢い込んで二人に尋ねる。あの小さな体で、あれほどの力を放ったのだ。無事で済むはずがない。
その問いに、二人はわずかに顔を曇らせる。
レオンハルトが、隣のベッドを顎で示した。
そっとカーテンが開けられたその先には、まふゆと同じようにベッドで眠るアリスの姿があった。その小さな体には痛々しく包帯が巻かれ、顔色は紙のように白い。
「アリス……さん……」
胸が締め付けられるような痛みに、まふゆは自分の手を強く握りしめた。
アリスの隣には、椅子に座ったまま、壁に寄りかかるようにして静かに目を閉じているミカゲの姿があった。
彼もまた、アリスから片時も離れず、ずっとここにいたのだろう。その黒い装束には、乾いた潮の跡が白く浮き出ていた。




