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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十八話 はじめての臨海学校-後編-
230/237

18-13




地鳴りのような振動が、水の壁を突き抜けて全身を叩く。

それは、先ほどまでの魔物の群れとは比較にならない、圧倒的な存在の顕現だった。


教師陣の参戦によって得たはずの安堵は、一瞬にして絶望的な恐怖へと塗り替えられる。


「な、なんやの……今度は……!?」


まふゆの瞳が、信じられないものを見るかのように見開かれた。


眼下の海底、その岩盤が巨大な蜘蛛の巣のように亀裂を走らせ、轟音と共に割れていく。

深淵の闇が口を開け、そこからせり上がってきたのは、戦艦ほどもある巨大な鋏だった。


金属質の光沢を放つそれは、ゆっくりと開閉し、それだけで周囲の海流を乱すほどの威圧感を放っている。


「……馬鹿な!あんな魔物は記録にないぞ!」


監視船の上で、水晶を覗き込んでいた教師の一人が絶叫した。

水中で対峙している者たちの衝撃は、それ以上だった。


「なんだ、あれは……!?」


レオンハルトが愕然と呟く。


「まさか……深海棲艦(アビスウォーカー)か……!なぜこんな浅瀬に!?」


セリウスの博識が、その正体を最悪の形で告げる。それは通常、光も届かぬ深海に生息し、並の軍隊では太刀打ちできないとされる伝説級の魔物だった。




「総員、退避!今すぐ陸へ上がれ!」


ガンツの鋭い声が響き渡る。彼の顔にも、もはや冷静さはなかった。


ガレオスもローゼリアも、目の前の巨体を前にして、その表情を硬直させている。生徒を守りながら、あんな化け物を相手にできるはずがない。


しかし、深海棲艦は彼らに逃げる時間を与えるつもりはなかった。

ゆっくりと持ち上げられた巨大な鋏が、狙いを定める。


その目標は、この場で最もか弱く、そして最も純粋な魔力の塊である──アリスだった。


「……ッ!危ない!」


ミカゲが誰よりも早くその殺意を感知し、アリスを突き飛ばそうと動く。

だが、巨体の動きは見た目に反して恐ろしく速かった。

回避は、間に合わない。


絶望が戦場を支配した、その時。




「──させへん!」


まふゆが、叫んでいた。

彼女は恐怖に震えるアリスを背中にかばい、両手を前へと突き出す。


その白い髪が水中でふわりと広がり、菫色の瞳が強い決意の光を宿した。


「聖域よ、穢れなき魂を守りたまえ!至上の守護をここに!『聖域展開(サンクチュアリ)』!」


アルビノエルフの真価。最上級の白魔術。

まふゆの詠唱に応え、彼女の全身から眩いばかりの純白の光が迸った。


光は水中で急速に広がり、まふゆたち七人と、加勢に来た教師たち全員を包み込む巨大な半球状の障壁を形成する。




直後、深海棲艦の巨大な鋏が、無慈悲に振り下ろされた。


ゴォォォォンッ!!


世界が揺れるほどの衝撃。

聖域と巨大な鋏が激突し、凄まじい衝撃波が周囲の海水を吹き飛ばした。水中に巨大な空洞が一瞬だけ生まれ、すぐに海水がなだれ込んで大渦を巻き起こす。


「ぐっ……うぅ……!」


まふゆは歯を食いしばり、全身全霊で障壁を維持する。

両腕に、骨が軋むほどの負荷がかかる。視界が白く点滅し、意識が遠のきそうになるのを必死に堪えた。


「まふゆ!」

「まふゆん!」


仲間たちの悲鳴に似た声が聞こえる。

聖域の内側は、奇跡的に無傷だった。

しかし、その奇跡を支えているまふゆ自身が、限界を迎えようとしていた。障壁には、巨大な鋏が当たった一点から、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始めている。


(あかん……もたへん……!)


次の一撃が来れば、この聖域は砕け散る。そして、その時こそ、全員の命運が尽きるだろう。




絶望的な状況の中、まふゆの背後で、ずっと固く目を閉じていた少女が、ゆっくりと目を開いた。


「……まふゆ」


アリスの薄青い瞳が、自らを庇い、必死に障壁を支えるまふゆの背中を、そしてその向こうで蠢く巨大な悪意を、静かに見据えていた。




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