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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十八話 はじめての臨海学校-後編-
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18-11




一方、水中のまふゆたちは、そんな邪悪な意図など知る由もなかった。

レオンハルトとセリウスが先行し、最初のターゲットブイの位置を特定する。


「よし、あそこだ!まふゆ、リリア!攻撃準備!」


レオンハルトの指示が、水の抵抗を越えて届く。


「わかった!」


まふゆはアリスの手を一度離し、いつでも白魔術を放てるように意識を集中させる。リリアも、水中での使用に改良された攻撃ポーションを手に構えた。


ターゲットである赤いブイの真下には、的となる木製の板が鎖で固定されている。あれを破壊すればいいはずだ。


七人がターゲットを取り囲むように布陣を組み、攻撃を開始しようとした、その時だった。




ゴポゴポゴポ……!


海底から、不気味な泡が立ち上り始めた。

そして、ターゲットの周囲の砂が盛り上がり、中からぞろぞりと、異形の影が姿を現したのだ。


それは、蟹のような硬い甲殻と、鋭い鎌のような腕を持つ、全長一メートルほどの魔物だった。一体や二体ではない。十数体の群れが、一斉にまふゆたちへと敵意を向けてきた。


「なっ……魔物だと!?授業内容にはなかったはずだぞ!」


レオンハルトが驚愕の声を上げる。


「罠……!?いや、この魔力反応……!」


セリウスがいち早く異常を察知する。


「きゃっ!?」

「ったく、また変な魔物なの!?」


リリアが後ずさり、シャノンは全身の毛を逆立てて威嚇の姿勢を取った。




「ま、魔物……!」


水の底から湧き上がった悪意は、瞬く間に七人を取り囲んだ。


昨夜、宝箱から現れた一体の魔物とは明らかに違う。

統率の取れた動き、殺意に満ちた眼光、そして何より、その数が桁違いだった。


しかも、ここは水中。手足の動き一つにも水の抵抗がまとわりつき、陸上と同じようには動けない。最悪の状況だった。


「アリスさん、危ない!」


まふゆの声は、水の壁に阻まれてくぐもった音になる。

彼女は反射的に、魔物の鎌の前にいたアリスを突き飛ばしていた。そして、自らが盾となり、アリスと鋭利な刃の間に割り込む。


迫り来る死の影。ぎらりと光る鎌が、眼前に迫る。


(間に合わへん……!)


防御魔術の詠唱が間に合わない。絶望がまふゆの心をよぎった、その刹那。

ガギンッ! という硬質な金属音が、すぐ側で鳴り響いた。


「……ッ、まふゆ!」


セリウスだった。彼はいつの間にかまふゆの隣に移動し、魔導書から展開した魔法障壁で鎌の一撃を寸でのところで受け止めていた。


しかし、魔物の膂力は相当なものらしく、障壁には大きな亀裂が走り、セリウスの表情が苦痛に歪む。


「ぐっ……なんて力だ……!」

「セリウス!」


その隙を逃さず、別の方向からレオンハルトが突撃した。彼が振るう剣は、水圧をものともしない豪快な一撃となって魔物の甲殻を叩き割る。


「ちぃっ、硬えな!だが、どうってことねえ!」


レオンハルトの一撃で怯んだ魔物に、今度は音もなく接近した影が襲いかかった。ミカゲだ。


彼は水中であることなど微塵も感じさせない滑らかな動きで魔物の死角に潜り込むと、その小刀を関節の隙間に寸分違わず突き立てる。

魔物は断末魔の泡を吐き出すこともなく、ぐったりと動きを止めた。




次々と仲間が危機を救ってくれる。しかし、安堵する暇はなかった。

一体倒しても、すぐに別の個体がその穴を埋めるように襲いかかってくる。


「きゃあ!こっちにも来たんですけどぉ!」

「うっとうしいわね!」


リリアが投げたポーションが水中で破裂し、周囲の魔物の動きを鈍らせる。シャノンは獣人ならではの瞬発力で俊敏に攻撃を躱し、鋭い爪で甲殻に傷をつけた。


だが、敵の数は減らない。それどころか、海底の砂地から次々と新たな個体が湧き出してくる。


(あかん、キリがない……!しかもここは水中や。みんなの体力がどんどん削られていく……!)


まふゆはアリスを庇いながら、治癒の光で傷ついたセリウスの腕を癒す。しかし、守りに徹していてはジリ貧だ。


アリスはまふゆの背後で、恐怖に体を震わせながら、薄青い瞳で目の前の惨状を見つめていた。魔法銃を構えようとするが、その小さな手はうまく動かないようだ。


昨日の戦闘での自信は、この圧倒的な物量と不利な環境によって、完全に打ち砕かれてしまっていた。


(このままじゃ……みんなが……!)


焦りが募る。どうすればこの状況を打開できるのか。

まふゆの思考が、絶望的な袋小路にはまり込もうとした、その時だった。




「──あんたは、あいつを守れ」


低く、しかし凛と響く声が、耳元で聞こえた。

ミカゲだった。彼はいつの間にかまふゆの背後に移動し、アリスを庇うように立ちはだかっていた。


「ミカゲ……?」

「こいつらは俺たちがやる。まふゆは、アリスから離れるな」


彼の瞳は、まふゆではなく、その背後で震えるアリスを真っ直ぐに見据えている。

それは、命令だった。そして同時に、絶対的な信頼を込めた、約束でもあった。


まふゆは、はっと息を呑む。

そうだ、自分には自分のやるべきことがある。仲間を信じ、そして、この小さな命を、何があっても守り抜くこと。


「……わかった。アリスさんのことは、任せて」


まふゆは強く頷いた。

その言葉を合図にしたかのように、ミカゲは再び魔物の群れへと、漆黒の矢のように突撃していった。




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