18-10
その頃、陸地から少し離れた海上に浮かぶ一隻の小舟。
その上には、生徒たちの訓練の様子を監視する数人の教師の姿があった。その中に、穏やかな笑みを浮かべ、海面を見つめる男がいる。
彼──エドウィンの緑色の瞳は、訓練の全体像を捉えてはいなかった。
その視線はただ一点、水中を移動するまふゆたち第一チーム、その中でも特に、アルビノエルフであるまふゆと、アリスの二人だけに、粘着質に注がれていた。
(素晴らしい……実に素晴らしい光景だ)
エドウィンの思考は、愉悦に染まっていた。
水中という特殊な環境は、生物の本能を剥き出しにする。
不安、恐怖、そしてそれを乗り越えようとする意志。そういった純粋な感情の揺らぎは、魔力の流れを活性化させる。
(アリス……私の最高傑作。君は今、アルビノエルフの庇護欲を一身に浴び、その魂を揺さぶられている。そしてまふゆ君、君のその慈愛に満ちた魔力は、アリスという不完全な器を満たし、安定させつつある……ああ、なんと美しい共生関係だろう!)
彼の脳裏には、歪んだ研究の完成図が描かれていた。
しかし、ただ観察しているだけでは足りない。最高のデータを収集するためには、最高の負荷が必要不可欠だ。
(さあ、見せておくれ。極限状況で、君たちの魂がどう共鳴するのかを)
エドウィンは、誰にも気づかれぬよう、そっと懐から小さな水晶玉を取り出した。
それは一見、ただの通信用の魔道具に見える。しかし、彼が指先で水晶に触れ、微かな魔力を流し込むと、その表面に一瞬だけ、禍々しい紋様が浮かび上がった。
それは、あらかじめ沖合の海底に複数仕掛けておいた「ある装置」を起動させるためのスイッチだった。
「……起動」
彼の唇から、吐息のような起動詠唱が漏れる。
その瞬間、まふゆたちが向かう最初のターゲットブイの真下、深い海底の岩陰に隠されていた魔道具が、静かに光を放ち始めた。




