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「な、なんやの、これ!!」
まふゆの叫び声が、静かな岩場に響き渡った。
目の前で繰り広げられる光景は、あまりにも非現実的だった。
水面から躍り出た巨大な魚は、空中で一度、力強く身をくねらせる。
太陽の光を乱反射させながら、その銀色の鱗はまばゆいばかりの虹色の光を放っていた。
それは魚というよりも、まるで宝石でできた竜のようにも見える。
バシャンッ!!
再び水中に戻った魚は、とてつもない力で抵抗を始めた。
ミカゲはアリスを背後からしっかりと抱え込み、ぐっと腰を落として体勢を維持している。彼の黒い装束が引き波で濡れるのも構わずに。
ミカゲに支えられたアリスも、小さな体で必死に竿を握りしめている。
その表情は真剣そのもので、薄青い瞳は水面下で暴れる巨大な影をまっすぐに見据えていた。
「ミカゲ!大丈夫なん!?」
まふゆは我に返り、二人のもとへ駆け寄ろうとする。しかし、ミカゲはそれを鋭い視線で制した。
「来るな!足場が悪い。あんたが落ちる」
「でも!」
「こいつは俺たちが釣る」
ミカゲの言葉は、有無を言わせない力強さを持っていた。
それは単なる拒絶ではなく、アリスと共にこの獲物を仕留めるという強い意志の表れだった。
そして、その言葉に応えるかのように、アリスが叫ぶ。
「……アリスが、釣る!」
その声に、まふゆは思わず足を止めた。
いつもおとなしく、自分の後ろに隠れてばかりいたアリスが、今、自分の意志で、目の前の困難に立ち向かおうとしている。
ミカゲという信頼できる支えを得て、その小さな体には確かな闘志がみなぎっていた。
ぎりり、と再び糸が軋む。
ミカゲは巧みに竿を操り、魚の力をいなしながら、少しずつ、少しずつ糸を巻き取っていく。
その動きは冷静沈着で、無駄が一切ない。暗殺者として培われた彼の技術が、こんな場面で発揮されるとは思いもよらなかった。
「……アリス、走るぞ。合わせろ」
「……うん!」
ミカゲが岩場を横に数歩移動すると、アリスも必死に小さな足でついていく。
二人の呼吸は完璧に合っていた。まるで、ずっと前から二人でこうしてきたかのように。
その光景を、まふゆはただ固唾を飲んで見守ることしかできなかった。
自分が入る隙間のない、二人の共闘。
嬉しさと、ほんの少しの寂しさが入り混じった不思議な気持ちで、まふゆは強く拳を握りしめる。
(がんばれ、アリスさん……!ミカゲ……!)
やがて、激しく抵抗していた魚の動きが、徐々に鈍り始めた。
好機を逃さず、ミカゲが一気に糸を巻き上げる。
「……引け!」
二人の最後の力が、釣竿に込められた。
そしてついに、壮絶な格闘の末、銀色に輝く巨大な魚体が、岩場の上へと引きずり上げられたのだった。




