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その言葉に、誰よりも早く、そして強く反応したのはアリスだった。
「……つり?」
こてん、と小さな首を傾げ、アリスは薄青い瞳でミカゲをじっと見つめる。その瞳には、純粋な好奇心がきらきらと輝いていた。
ミカゲは相変わらず表情を変えず、ただスープ皿に視線を落としている。
アリスは次の瞬間、がたりと椅子から身を乗り出し、隣に座るまふゆの服の袖をぎゅっと掴んだ。
「まふゆ、アリスも、つり、したい」
その声はまだ少し舌足らずだったが、強い意志が込められていた。キラキラとした期待の眼差しで、まふゆをまっすぐに見上げてくる。
こんな風に、アリスが自分から何かを「したい」と強く主張するのは、まだ珍しいことだ。その成長が、まふゆにはたまらなく嬉しかった。
「ふふっ、そっか。釣り、してみたいんやね」
まふゆはアリスの頭を優しく撫でる。
その様子を見ていたレオンハルトが、ニッと笑って言った。
「決まりだな!じゃあ、まふゆとアリス、それにミカゲは釣り。俺は海で思いっきり泳いでくるぜ!」
「あーしはリッタと約束してるから、お買い物行ってきまーす!」
リリアも楽しそうに言う。
こうして、臨海学校二日目の午前中の予定は、それぞれの希望通りに決まった。
朝食を終え、一度部屋に戻って準備を整える。
「それじゃあ、また昼に食堂で会おう!」
「うん、みんな気をつけてな」
レオンハルトたちと別れ、まふゆとアリス、そしてミカゲの三人は、保養施設の裏手にある岩場へと向かった。
ミカゲはどこで調達したのか、簡素な釣竿を三本と、小さな木の箱を抱えている。
「なあ、ミカゲ。釣竿まで用意してくれてたん?おおきに」
「……ああ」
「アリスさん、初めての釣りやな。楽しみやね」
「……うん」
まふゆに手を引かれながら、アリスは嬉しそうに頷く。
岩場は波が穏やかで、絶好の釣りスポットのようだった。ミカゲは手際よく釣竿を準備し、木の箱から取り出した餌を針につけていく。
「あんたはこっちを使え。アリスは……俺が見る」
そう言って、ミカゲは一本の釣竿をまふゆに手渡し、もう一本を持ってアリスの隣にしゃがみ込んだ。そして、驚くほど丁寧に、釣りの仕方を教え始める。
「いいか。こうやって糸を垂らす。魚が食いついたら、この竿が少し動く。そしたら、ゆっくり引き上げるんだ」
「……うん」
ミカゲの低く静かな声と、アリスの素直な返事。
その光景は、どこか不思議で、でも自然なものにまふゆには見えた。
自分もミカゲに教わった通りに釣竿を構え、きらきらと光る水面へと糸を垂らす。
夏の太陽がじりじりと肌を焼き、潮風が頬を撫でていく。
遠くからは、レオンハルトたちが海ではしゃぐ声が微かに聞こえていた。




