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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十七話 はじめての臨海学校-中編-
214/237

17-7




夜の静寂を、寄せては返す波音だけが優しく撫でていく。

星々の光は水面に揺らめき、まるで空と海が一つに溶け合ったかのようだ。


まふゆは隣のアリスが、こくりこくりと舟を漕ぎ始めているのに気づき、自分の肩にそっとその頭をもたれさせてやった。


静かな時間が心地よかったが、ずっと気になっていたことを、まふゆは隣の黒い影に向かって問いかけた。


「……ミカゲは、まだアリスさんのこと、警戒してるん?」


その声は夜の空気に溶けるように、とても静かだった。

ミカゲは空を見上げたまま、すぐには答えなかった。彼の視線の先には、一つの星座が強く輝いている。




しばしの沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。


「……警戒、か」


その声は、いつもより少しだけ低い。


「あんたがどう思うかは知らんが、俺はあいつが何者でも構わん」

「え……?」


意外な言葉に、まふゆはミカゲの方へと顔を向けた。暗がりの中、彼の横顔のシルエットがおぼろげに浮かび上がる。


「あいつが、あんたを傷つけないと確信できるならな」


それは、肯定でも否定でもない、ミカゲらしい極めて合理的な答えだった。


彼はアリス個人を警戒しているのではない。アリスという存在が、まふゆにとっての脅威になり得る可能性を、ただ冷静に観察しているだけなのだ。


その根底にあるのは、まふゆの身の安全が何よりも優先されるという、彼の中の揺るぎない一つの事実。


「……そっか」


まふゆは、その不器用で真っ直ぐな気遣いが、少しおかしくて、そして何よりも嬉しかった。


ミカゲは、いつだってこうだ。言葉は足りないし、態度は素っ気ない。

けれど、その行動や視線の先には、いつも静かで、けれど確かな思いが込められている。


「うちを傷つけることなんて、あらへんよ。アリスさんは、優しい子やもん」


まふゆは、肩に寄りかかるアリスの柔らかな髪をそっと撫でながら言った。


「……だといいがな」




ミカゲはそれ以上何も言わず、再び沈黙が訪れる。

でも、さっきまでの沈黙とは少し違う、温かい空気が三人の間に流れていた。


まふゆは、ミカゲがアリスの浴衣姿を褒めた時のことを思い出していた。

あれはきっと、ミカゲなりの歩み寄りだったのかもしれない。まふゆが大切にしているから、その存在を少しだけ認めようとしてくれたのではないか。


(うちが信じてるから、ミカゲも信じようとしてくれてるんかな……)


そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなる。


まふゆは夜空を見上げ、満天の星にそっと微笑みかけた。この穏やかな夜が、もう少しだけ続けばいいと、心の底から願った。




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