17-6
夜空を焦がす光の饗宴が、クライマックスを迎える。
ひときわ大きな音と共に、夜空いっぱいに金色の柳がしだれ、辺り一面を真昼のように照らし出した。
その光が名残惜しげに消えていくと、浜辺はしばしの静寂と、人々の大きなため息に包まれた。
「……終わってしもうた」
まふゆは、まだ光の残像がちらつく空を見上げたまま、ぽつりと呟いた。
祭りの後のような、少しの寂しさと、胸いっぱいの満足感が入り混じった不思議な気持ちだった。
「見事なものだったな」
レオンハルトが腕を組み、感嘆の息を漏らす。
「ああ。学園の技術部のレベルの高さを再認識させられたよ」
セリウスも同意し、その理知的な瞳に珍しく純粋な感動の色を浮かべていた。
その時、後方からぱたぱたと軽い足音が近づいてきた。
「まふゆーん!見て見て!この子、あーしの友達ー!リッタっていうの!」
振り返ると、リリアが先ほど指さしたドワーフの女の子の手を引いて、駆け寄ってくるところだった。
「リリア。それに……リッタさん。花火、すごかったで」
まふゆが笑顔で声をかけると、ドワーフの女の子──リッタは、額のゴーグルをカチャリと持ち上げ、少し照れたようににかっと笑った。
「おうよ!ワシの力作じゃからな!どや、度肝抜かしたじゃろ?」
その口調は、小柄な見た目とは裏腹に、まるで年老いた職人のように堂々としていた。
「うん! めっちゃ綺麗やった! ありがとう!」
まふゆが素直な感謝を伝えると、リッタは満足げに喉を鳴らす。
「ふふんっ、すごいでしょー!」
「いやお前じゃなくてワシが作ったもんじゃぞ!なんでお前がドヤ顔しとるんじゃ!」
リリアが自分のことのように胸を張る。その二人の姿は、種族は違えど、本当に仲が良い親友なのだと伝わってきた。
花火が終わり、生徒たちは三々五々、保養施設の建物へと戻り始める。
まふゆたちの間にも、自然と解散の空気が流れた。
「さて、俺たちは部屋に戻って一杯やるか」
レオンハルトがセリウスの肩を叩く。
「兄さんは飲みすぎないようにね」
「わかってるって」
そんなやり取りを交わしながら、二人は男子たちが向かう方へと歩いて行った。
「じゃ、あたしも部屋戻るわ。おやすみ」
シャノンは短く告げると、猫のようにしなやかな足取りで暗がりへと消えていく。
「あ、シャノちゃん待ってよー!リッタ、また明日ね!」
「おう、達者でな!」
リリアも慌ててシャノンの後を追いかけていった。
気づけば、浜辺にはまふゆとアリス、そしていつものように少し離れた場所に佇むミカゲの三人だけが残されていた。
夜の波音が、さっきよりも大きく聞こえる。
「……ミカゲも、部屋に戻るん?」
まふゆが声をかけると、ミカゲはゆっくりとこちらに顔を向けた。花火の光が消えた暗闇の中でも、彼の瞳は不思議とよく見える。
「……あんたたちはどうする」
問いを問いで返す、彼らしい返事だった。
まふゆは隣に立つアリスを見下ろす。
アリスは、まだぼんやりと空を見上げていた。その瞳には、先ほどの鮮やかな光がまだ宿っているかのようだ。
「うちは、もうちょっとだけ夜の海を見てから戻ろかなって。アリスさんも、そうしたいやろ?」
問いかけると、アリスはこくりと小さく頷いた。
「……うん」
それを聞いたミカゲは、何も言わずに踵を返し、来た道とは違う、波打ち際の方へと歩き始めた。
「え、ミカゲ?」
「……付き合う」
短い一言だけを残し、彼は砂浜に腰を下ろした。まるで黒い影が夜に溶け込むようだ。
その不器用な優しさに、まふゆは思わず笑みをこぼした。
「ふふっ……そっか。おおきに」
まふゆもアリスの手を引き、ミカゲから少し離れた場所に並んで腰を下ろす。
浴衣の裾を濡らさないように、そっと。
三人だけの、静かな時間。
言葉はない。
ただ、寄せては返す波の音を聞きながら、同じ星空を見上げている。
隣にいるアリスの温もりと、少し離れた場所にある確かな存在感。
その全てが、まふゆの心を穏やかに満たしていく。




