17-3
湯上りの火照った体で脱衣所に戻ると、そこには保養施設が用意してくれたらしい、色とりどりの浴衣が畳んで置かれていた。
「わあ、浴衣まであるんや!すごいなあ」
「ほんとだねー!どれにしようかなー!」
「全く……別にどれでもいいでしょ」
リリアとシャノンは、さっそく自分に似合いそうな柄を選び始める。
まふゆは、まだ少しぼうっとしているアリスの手を取り、彼女の前にしゃがみ込んだ。
「アリスさん、浴衣着てみよか。涼しくて気持ちええで」
「……ゆかた?」
「うん。うちの故郷の服なんよ」
まふゆは、アリスの小さな体に合いそうな、淡い水色地に朝顔が描かれた浴衣を選んでやる。そして自分は、白い肌によく映える、白地に淡い紫の撫子が咲き乱れる柄を選んだ。
慣れない手つきのアリスを手伝いながら着付けを終えると、二人はまるで姉妹のようにお揃いの雰囲気になった。
「うん、よう似合うとるで、アリスさん」
「……まふゆも、きれい」
ぽつり、と呟かれた言葉に、まふゆは胸がきゅっとなるのを感じながら、アリスの頭を優しく撫でた。
先に着替え終えたリリアとシャノンに別れを告げ、まふゆはアリスの手を引いて、待ち合わせ場所である休憩スペースへと向かう。
ひんやりとした木の床が、火照った足裏に心地よかった。
「あ」
休憩スペースに差し掛かったところで、まふゆは足を止めた。
窓の外の夜景を眺めるでもなく、ただ壁に背を預けて佇む黒い人影。
先に風呂から上がったのだろう、彼もまた黒を基調としたシンプルな浴衣を身に着けていた。
ミカゲは二人の足音に気づくと、静かに顔を上げた。その黒曜石の瞳が、浴衣姿のまふゆとアリスを、上から下までゆっくりと観察するように見つめる。
「……ミカゲ。待っててくれたん?」
まふゆが声をかけると、彼はふいと視線を逸らした。
「別に。先に涼んでただけだ」
素っ気ない返事。だが、彼がここで一人、誰かを待っていたことは明らかだった。
ミカゲは再びまふゆに視線を戻す。その瞳には、普段の無機質な光とは違う、何か複雑な色が揺らめいているように見えた。
「……その格好」
「え?ああ、浴衣のこと?似合う?」
まふゆが少し照れながら、くるりと一回りしてみせる。袖がふわりと揺れ、撫子の柄が舞った。
ミカゲは何も答えない。ただ、その視線はまふゆの姿に釘付けになっている。
やがて、その視線はまふゆの隣に立つアリスへと移った。
アリスは、ミカゲの強い視線に少し気圧されたように、まふゆの浴衣の袖をきゅっと握りしめる。
「……あんたもだ」
ミカゲが、アリスに向かってぽつりと呟いた。
「……?」
「……似合ってる」
思いがけない言葉に、まふゆだけでなく、アリス本人もきょとんと目を丸くした。
ミカゲが誰かの服装を褒めるなど、天変地異の前触れではないだろうか。
「……ミカゲ、今……」
まふゆが驚きを隠せずにいると、ミカゲは気まずそうに顔を背け、歩き出してしまった。
「……行くぞ。レオンハルトたちが待ってる」
その背中はどこか焦っているようにも見える。
まふゆは、アリスと顔を見合わせ、くすりと笑った。
「ふふっ、行こか、アリスさん」
「……うん」
手をつなぎ直し、少し先を歩く大きな黒い背中を追いかける。
バーベキューの賑やかな声と美味しそうな匂いが、もうすぐそこまで漂ってきていた。




