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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十七話 はじめての臨海学校-中編-
210/237

17-3




湯上りの火照った体で脱衣所に戻ると、そこには保養施設が用意してくれたらしい、色とりどりの浴衣が畳んで置かれていた。


「わあ、浴衣まであるんや!すごいなあ」

「ほんとだねー!どれにしようかなー!」

「全く……別にどれでもいいでしょ」


リリアとシャノンは、さっそく自分に似合いそうな柄を選び始める。

まふゆは、まだ少しぼうっとしているアリスの手を取り、彼女の前にしゃがみ込んだ。


「アリスさん、浴衣着てみよか。涼しくて気持ちええで」

「……ゆかた?」

「うん。うちの故郷の服なんよ」


まふゆは、アリスの小さな体に合いそうな、淡い水色地に朝顔が描かれた浴衣を選んでやる。そして自分は、白い肌によく映える、白地に淡い紫の撫子が咲き乱れる柄を選んだ。


慣れない手つきのアリスを手伝いながら着付けを終えると、二人はまるで姉妹のようにお揃いの雰囲気になった。


「うん、よう似合うとるで、アリスさん」

「……まふゆも、きれい」


ぽつり、と呟かれた言葉に、まふゆは胸がきゅっとなるのを感じながら、アリスの頭を優しく撫でた。


先に着替え終えたリリアとシャノンに別れを告げ、まふゆはアリスの手を引いて、待ち合わせ場所である休憩スペースへと向かう。

ひんやりとした木の床が、火照った足裏に心地よかった。




「あ」


休憩スペースに差し掛かったところで、まふゆは足を止めた。


窓の外の夜景を眺めるでもなく、ただ壁に背を預けて佇む黒い人影。

先に風呂から上がったのだろう、彼もまた黒を基調としたシンプルな浴衣を身に着けていた。


ミカゲは二人の足音に気づくと、静かに顔を上げた。その黒曜石の瞳が、浴衣姿のまふゆとアリスを、上から下までゆっくりと観察するように見つめる。


「……ミカゲ。待っててくれたん?」


まふゆが声をかけると、彼はふいと視線を逸らした。


「別に。先に涼んでただけだ」


素っ気ない返事。だが、彼がここで一人、誰かを待っていたことは明らかだった。

ミカゲは再びまふゆに視線を戻す。その瞳には、普段の無機質な光とは違う、何か複雑な色が揺らめいているように見えた。


「……その格好」

「え?ああ、浴衣のこと?似合う?」


まふゆが少し照れながら、くるりと一回りしてみせる。袖がふわりと揺れ、撫子の柄が舞った。

ミカゲは何も答えない。ただ、その視線はまふゆの姿に釘付けになっている。


やがて、その視線はまふゆの隣に立つアリスへと移った。

アリスは、ミカゲの強い視線に少し気圧されたように、まふゆの浴衣の袖をきゅっと握りしめる。


「……あんたもだ」


ミカゲが、アリスに向かってぽつりと呟いた。


「……?」

「……似合ってる」


思いがけない言葉に、まふゆだけでなく、アリス本人もきょとんと目を丸くした。

ミカゲが誰かの服装を褒めるなど、天変地異の前触れではないだろうか。




「……ミカゲ、今……」


まふゆが驚きを隠せずにいると、ミカゲは気まずそうに顔を背け、歩き出してしまった。


「……行くぞ。レオンハルトたちが待ってる」


その背中はどこか焦っているようにも見える。

まふゆは、アリスと顔を見合わせ、くすりと笑った。


「ふふっ、行こか、アリスさん」

「……うん」


手をつなぎ直し、少し先を歩く大きな黒い背中を追いかける。

バーベキューの賑やかな声と美味しそうな匂いが、もうすぐそこまで漂ってきていた。




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