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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十七話 はじめての臨海学校-中編-
209/266

17-2




一方その頃、壁一枚を隔てた男子風呂でも、三人の男たちが同じように温泉に浸かっていた。


女子風呂ほどの華やかさはないが、こちらも広々とした岩風呂で、湯けむりが立ち上っている。


「はぁ〜……生き返るな……」


レオンハルトが気持ちよさそうに息を吐きながら、岩に背中を預けて手足を伸ばす。

歴戦の王子といえど、今日の戦いは骨が折れたのだろう。


「全くだ。戦闘の後の温泉は格別だね」


隣でセリウスも同意し、長い指で濡れた白銀の髪をかき上げた。


ミカゲは二人から少し離れた隅で、静かに湯に浸かっている。その表情は湯気で窺えないが、いつもよりは纏う空気が和らいでいるように見えた。


穏やかな静寂が流れる。男同士、特に語り合うこともなく、ただ湯の心地よさに身を委ねる時間。




しかし、その静寂は、壁の向こうから微かに聞こえてくる賑やかな声によって破られた。


『ねえ、まふゆんのその……すごいよね』

『え?』


リリアの屈託のない声が、意外なほどはっきりと響いてきた。


「ん?」


レオンハルトがぴくりと眉を動かす。セリウスも何事かと耳を澄ませた。

男子風呂と女子風呂を隔てる壁は、思ったよりも音を通すらしい。


『う、うちの……胸のこと?』

『うん!たわわって言うか、なんかこう……すごい!芸術的!』


まふゆの戸惑う声と、リリアの無邪気な絶賛。その生々しい会話の内容に、レオンハルトとセリウスは思わず固まった。


「ぶっ!?」


レオンハルトが盛大に湯を噴き出し、顔を真っ赤にしてむせる。

セリウスも冷静さを保とうと努めているが、その耳はほんのりと赤く染まっていた。


脳裏に、白いビキニからこぼれんばかりだった、まふゆの豊かな胸が鮮明に再生される。




(げ、芸術的……っ!た、確かに……!)


レオンハルトは心の中で激しく同意しながら、平静を装って咳払いをした。


(リリアも、なんてことを……!でも、的確な表現ではある……いや、何を考えているんだ僕は……!)


セリウスは自分を戒めるように、ぱしゃりと顔に湯をかけた。


『……なんか、親子みたいだしー』

『なっ……!親子て!うち、まだそんな歳ちゃうわ!』


さらに聞こえてくる会話に、二人の緊張は少しだけ緩む。まふゆとアリスの微笑ましいやり取りが目に浮かぶようだ。


「……ははっ、聞こえちまってるな」


レオンハルトが照れ隠しに笑う。


「……あまり、聞くべきじゃないんだろうけどね」


セリウスも苦笑を浮かべる。




そんな二人を尻目に、ミカゲは全く動じていなかった。


いや、その黒曜石のような瞳は、壁の向こう──まふゆの声がする一点を、じっと見つめている。


彼の聴力は常人より遥かに鋭い。おそらく、息遣いまで聞こえているのかもしれない。


『……まふゆ、おっきい』

『アリスさんまで……!?』

『……あったかい』


アリスの素直な言葉が聞こえた瞬間。

それまで微動だにしなかったミカゲの肩が、ほんのわずかに動いた。


その視線は、もはや壁など存在しないかのように、その先の光景を捉えているかのようだった。

彼の脳裏に浮かぶのは、自分以外の誰かに無防備に甘える、あの白いアルビノエルフの姿。


「…………」


ミカゲは静かに立ち上がると、無言のまま湯船から上がり、洗い場の方へと歩いて行ってしまった。

その背中が何を思っているのか、レオンハルトとセリウスには知る由もなかった。


「……なんだ? もう上がんのか?」

「……さあ?」


残された王子二人は顔を見合わせ、再び壁の向こうから聞こえてくる楽しげな声に、知らず知らずのうちに耳を傾けてしまうのだった。




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