16-10
ローゼリアの言葉が、砂浜全体に響き渡る。
その宣言に、まふゆは心の底からほっと安堵のため息をついた。
(やっぱり授業やったんや!)
自分の推測が正しかったことに、嬉しさすら込み上げる。そうだ、学園の先生たちがこんな危ないことを放っておくはずがない。これは、実戦形式の特別授業なんだ。
まふゆの不安は消え去り、代わりに湧き上がってきたのは、仲間たちへの信頼と、この戦いを乗り越えようという強い意志だった。
「よしっ!みんな、押し切るでー!!」
まふゆの朗らかな声が、戦場と化した砂浜に響く。その言葉が、仲間たちの背中を強く後押しした。
「おうよ!任せておけ!」
レオンハルトが豪快に笑いながら、魔物の甲殻に剣を叩き込む。まふゆの赤い光に増強された攻撃力は、硬質な装甲に深い亀裂を走らせた。その剣捌きは、まさに隣国の第一王子の名に恥じぬものだった。
「兄さん、左の脚部に隙ができてる!」
セリウスが冷静に状況を分析し、魔力を増幅された瑠璃色の魔術弾を放つ。
魔力弾は正確無比に魔物の関節部を狙撃し、その動きを鈍らせた。兄弟の息の合った連携が、魔物の動きを確実に削っていく。
「……」
ミカゲは無言のまま、黒い影のように魔物の死角へと回り込む。
赤い光に強化された筋力で、短剣が信じられない速度で魔物の複眼の一つを切り裂いた。暗殺者としての動きは、まさに芸術の域だった。
「こっちだって、負けてらんないわよ!」
シャノンが水への恐怖を振り払い、猫族の俊敏さで魔物の背後に跳躍する。増強された爪が、魔物の甲殻の隙間を狙い、その内部へと食い込んだ。
「いっけぇ、痺れ薬ー!」
リリアが調合した痺れ薬の小瓶を、魔物の傷口目掛けて投げつける。瓶が割れ、紫色の液体が魔物の体内に染み込んだ。魔物の動きが、さらに鈍くなる。
そして──
「……まふゆ」
まふゆの背後で、ずっと怯えて震えていたアリスが、小さな声で名を呼んだ。
振り返ると、彼女はまふゆの白魔術によって展開された黄金の障壁に守られながら、その手に魔法銃を握りしめていた。
その瞳には、もう恐怖ではなく、確かな決意の光が宿っている。
「……アリスも、やる」
昇級試験の時と同じように、アリスは魔法銃に魔力を集め始めた。ゆっくりと、しかし確実に、蒼い光が銃身に収束していく。
まふゆは、その小さな背中を見守りながら、優しく微笑んだ。
「うん、任せた!」
アリスが引き金を引く。蒼い閃光が、仲間たちの攻撃で傷だらけになった魔物の中心核を、一直線に貫いた。
ドォォン!
轟音と共に、魔物の巨体が崩れ落ちる。砂浜に倒れた魔物は、もう二度と動くことはなかった。
その巨体が砂に沈み込み、やがて瘴気と共に黒い霧となって消えていく。
後に残ったのは、砕けた宝箱の残骸と、その中から転がり出た本物の豪華食材セットだった。
「やった……!」
まふゆが安堵のため息をつく。全身から力が抜けそうになるのを堪え、隣のアリスの頭を優しく撫でた。
「アリスさん、すごかったで。あの一撃、決まったな」
「……うん」
アリスは少し照れたように俯いたが、その顔には確かな達成感が浮かんでいた。
「っしゃあ!俺たちの勝ちだ!」
レオンハルトが剣を天に掲げ、雄叫びを上げる。その声を合図に、砂浜全体から歓声と拍手が巻き起こった。
「すげえええ!」
「かっこよかったー!」
「あれが本物の戦いなんだな……!」
他の生徒たちは、目の前で繰り広げられた実戦に興奮を隠しきれない様子だった。
ローゼリアもマイクを握りしめたまま、ほっと胸を撫で下ろす。
「見事よ、第一チーム!これこそが、王立特異能力者統合学園の真髄!素晴らしい連携だったわ!」
彼女の言葉に、再び歓声が上がる。
セリウスはやれやれと肩をすくめ、シャノンは「ふんっ、当然の結果よ」とそっぽを向きながらも尻尾を嬉しそうに揺らしていた。
リリアは涙目で「よかったぁ……!」と胸を撫で下ろしている。
そして、ミカゲは静かに短剣を仕舞うと、まふゆの方へと歩み寄った。その黒曜石の瞳が、じっとまふゆを見つめる。
「……無事か」
「うん、ミカゲのおかげや。ありがとう」
まふゆが笑顔で答えると、ミカゲは小さく息をついた。その視線は、まふゆの隣で銃を下ろしたアリスへと移る。
「……あんたも、よくやった」
その短い言葉に、アリスはきょとんとした顔で彼を見上げた。ミカゲが誰かを褒めるなど、極めて珍しいことだった。
まふゆは、仲間たちの無事な姿を見渡し、心の底から安堵した。
授業とはいえ、本当に危なかった。でも、みんなで力を合わせたからこそ、乗り越えられたんだ。
その実感が、まふゆの胸を温かく満たしていく。
やがて、興奮冷めやらぬ砂浜に、ローゼリアの明るい声が響いた。
「さあ、第一チームは豪華食材をゲット!今夜のバーベキューが楽しみね!それじゃあ、みんな一旦休憩よ!次の授業まで自由時間!海で遊ぶもよし、部屋で休むもよし!思い思いに過ごしてちょうだい!」




