16-7
まふゆがアリスの手を引いて、沖に浮かぶ宝箱が設置された小さな浮島へと走る。
その後ろを、レオンハルトやセリウスたちが、誇らしげな顔で続いた。
他のチームの生徒たちからは、羨望と悔しさの入り混じった視線が注がれている。
浮島に到着すると、レオンハルトが代表してアリスから錆びた鍵を受け取った。
「よし、アリス。お前が見つけた鍵で、俺たちの勝利を祝うとしよう」
レオンハルトはニヤリと笑い、古めかしい木製の宝箱の鍵穴に、ゆっくりと鍵を差し込んだ。
カチリ、と乾いた音が響く。
宝箱の蓋が、わずかに持ち上がった。
「おおっ!」
「開いた!」
歓声が上がる。豪華食材セットが目の前にあるのだ。今夜のバーベキューを想像し、誰もが胸をときめかせた。
レオンハルトが蓋に手をかけ、一気にそれを開け放った──その瞬間。
「──!?」
宝箱の中から溢れ出たのは、高級な肉や野菜ではなかった。
どす黒い瘴気。そして、全てを凍てつかせるような、圧倒的な悪意。
「グルルルルァァァァッ!!」
甲高い咆哮と共に、瘴気の中から異形の影が飛び出した。
それは、蟹と蠍を混ぜ合わせたような姿をした水棲の魔物だった。
濡れてぬらぬらと光る甲殻、鎌のように鋭い巨大なハサミ、そして、無数の複眼が無差別に憎悪を振りまいている。
大きさはゴーレムほどもあり、宝箱にどうやって収まっていたのか見当もつかない。
「なっ……!なんだ、こいつは!」
レオンハルトが咄嗟に仲間たちを庇うように前に立つ。
「授業じゃなかったのか!?」
セリウスも顔色を変え、警戒態勢をとった。
「ま、魔物っ!?なんで宝箱から!?」
リリアの悲鳴が砂浜に響き渡る。シャノンは本能的な恐怖でその場に立ち尽くしていた。
「危ない、アリスさん!」
まふゆは、恐怖に固まるアリスの体をぐっと引き寄せ、自分の背後へと隠す。
異形の魔物は、巨大なハサミを振り上げ、一番近くにいたレオンハルト目掛けて、躊躇なくそれを振り下ろした。
キィィンッ!という甲高い金属音。
誰もが息を呑む一瞬。レオンハルトの前に割り込み、その凶刃を受け止めたのは、いつの間にかそこに移動していたミカゲだった。
彼はどこから取り出したのか、二本の黒い短剣を交差させ、魔物の巨大なハサミを寸前で防いでいた。
「ミカゲ!」
「……チッ。面倒なことになったな」
ミカゲは体勢を低くしながら、魔物の複眼を睨みつける。その黒曜石の瞳には、面倒だという感情とは裏腹に、冷徹な狩人の光が宿っていた。
この異常事態。それは、偶然の産物などではなかった。
遠く離れた保養施設の一室。エドウィンは水晶玉に映るその光景を眺め、ワイングラスを満足げに傾けていた。
「ふふふ……さあ、見せておくれ。絶望的な状況で、君たち『おともだち』の絆がどう機能するのかを。そして……純潔のアルビノエルフ、まふゆ君。君のその慈愛に満ちた白魔術が、私の愛しい魔物にどう作用するのかをね」
彼の仕掛けた悪意の罠が、今、牙を剥いたのだった。




