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ざあ、ざあ、と寄せては返す波の音が心地よいBGMのように響く。
まふゆとアリスは、砂浜にしゃがみ込み、波が洗い流していく砂の中から慎重に何かを探していた。目的は宝箱の『鍵』のはずが、いつの間にか二人の興味は別のものへと移っていた。
「うわあ、貝殻綺麗やねえ」
まふゆは、手のひらに乗せた桜色の小さな巻貝を、太陽の光にかざして目を細めた。滑らかな表面が真珠のように淡く輝いている。
「アリスさん、見て。これ、ピンク色やで。かわいい」
「……うん。かわいい」
隣で同じようにしゃがんでいたアリスも、自分の手のひらに集めた小さな宝物たちをうっとりと眺めている。
まん丸で白い石、波に洗われて角が取れたラムネ色のガラスの欠片、そして小さな二枚貝。
アリスはそれらを一つ一つ、大切そうに自分の水着のポケットに仕舞っていく。
本来の目的を忘れ、二人は夢中になって貝殻拾いを続けていた。きらきらと光る波打ち際は、まるで宝石箱をひっくり返したかのようだ。
「こっちは青くて透き通ってるわ。まるで空のかけらみたい」
「……アリスは、これ」
アリスが、拾ったばかりの小さな白い貝殻をまふゆの手にそっと乗せた。
それは、まふゆの髪の色にも似た、混じりけのない純白の貝殻だった。
「わ、ありがとう、アリスさん。おそろいやね」
まふゆは嬉しそうに微笑み、その白い貝殻を、先ほどの桜色の貝殻の隣に並べた。
宝探しの喧騒も、仲間たちの声も、今は遠い世界の出来事のよう。目の前の小さな発見に心をときめかせ、二人は穏やかで幸福な時間に浸っていた。
そんな二人を、少し離れた岩場から見ていたセリウスは、やれやれと首を振る。
「……あの二人、完全に目的を忘れてないかい?」
「ははっ、いいじゃないか。楽しそうで何よりだ」
隣で岩の隙間を覗き込んでいたレオンハルトは、楽しげに笑うのだった。
────二人はすっかり宝探しのことを忘れ、夢中で波打ち際の宝物を集め続けている。
「あ、見てアリスさん。この貝殻、虹色に光ってるわ」
「……ほんとだ」
しゃがみ込んだまふゆの隣で、アリスが小さな指で砂を掘り返していた。彼女もまた、自分だけの宝物を見つけようと真剣だった。
その時、アリスの指が、砂の中で何か硬いものに触れた。貝殻や石とは違う、冷たくて複雑な感触。
「……ん?」
アリスは不思議に思い、その物体を慎重に掘り起こす。
砂の中から現れたのは、錆びて茶色くなった、手のひらほどの大きさの鍵だった。全体が海の生き物を模したような複雑な装飾で覆われている。
「……まふゆ」
アリスは、それが何なのかよくわからないまま、隣のまふゆにそっと差し出した。
「どうしたん、アリスさ……ん? これって……」
まふゆはアリスの手にあるものを見て、ぱちくりと目を瞬かせた。
錆びついてはいるが、紛れもなくそれは『鍵』だった。
「か、鍵や! アリスさん、すごい! 鍵、見つけたで!」
まふゆが思わず大きな声を上げると、岩場で捜索していたレオンハルトとセリウスが「何っ!?」と振り返る。
一人でいたシャノンも、驚いたようにこちらを見ていた。
まふゆたちのチームが、まさかの一番乗りで沖の宝箱を開けることになるとは。
他の生徒たちが必死で砂浜を掘り返している中、貝殻拾いに夢中になっていた二人が偶然にも鍵を発見したという事実に、誰もが呆気にとられていた。
「ははは! まさかアリスがお手柄とはな! よくやった!」
レオンハルトが豪快にアリスの頭を撫でる。
「……うん」
アリスは褒められて少し恥ずかしいのか、まふゆの後ろに隠れてしまったが、その顔は嬉しそうだった。




