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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十六話 はじめての臨海学校-前編-
198/342

16-3




魔法バスが空から地上へと緩やかに降下し、目的地である海辺の保養施設に到着した。


扉が開き、生徒たちが次々と降りてくる。むわりとした熱気と共に、これまで学園では感じたことのない、独特の匂いが鼻をくすぐった。塩を含んだ風の匂いだった。


施設の裏手はすぐに砂浜へと続いており、その先にはどこまでも広がる青の世界があった。




「うわぁ……!」


バスを降りた瞬間、目の前に広がる光景に、まふゆは息を呑んだ。


視界の果てまで続く、空を映したかのように青い水面。

白い波頭が太陽の光を浴びてきらきらと輝きながら、絶え間なく砂浜に打ち寄せては、ざあ、という心地よい音を立てて引いていく。


「海やーっ!!」


生まれて初めて見るその雄大な光景に、まふゆの心は一瞬で奪われた。気づけば、ボストンバッグを放り出し、砂浜へと駆け出していた。


隣で同じように目を丸くしていたアリスも、こくこくと頷きながら、まふゆの後をおぼつかない足取りで追う。


「すごい……!アリスさん、見て!全部お水なんやって!」

「……きれい」


まふゆが興奮気味に指さすと、アリスもこぼれるような声で呟いた。

彼女の薄青い瞳が、海の青を吸い込んで、いつもより深く澄んで見える。


二人は波打ち際に立ち、寄せては返す波の動きを、ただ夢中になって見つめていた。




その一方で、後からバスを降りてきたシャノンは、対照的な反応を見せていた。


「うっ……」


彼女は砂浜の手前でぴたりと足を止め、眉間に皺を寄せている。

楽しげな仲間たちとは裏腹に、その顔は明らかに引きつっていた。


猫の獣人である彼女にとって、目の前に広がる広大な水の塊は、本能的な警戒心を呼び起こす対象でしかない。


「なによ……ただ水がいっぱいあるだけじゃない……」


誰に言うともなく悪態をつきながらも、波が少しでも大きく音を立てると、びくりと肩を震わせる。


その尻尾は不安げに左右に揺れ、耳もぺたんと伏せられていた。

これから三日間、この水の塊と過ごさなければならないという現実に、シャノンは早くも憂鬱な気分になるのだった。




波打ち際でアリスとはしゃぐまふゆと、その後方で明らかに顔をこわばらせているシャノン。


その対照的な二人を見て、セリウスはくすくすと笑いを漏らした。

彼は自分の荷物を砂浜に置くと、腕を組みながらシャノンに近づいていく。


「そんなに水が苦手なのに、どうして参加したんだい、シャノン」


セリウスが楽しそうに、しかし少し意地悪な響きを込めて尋ねる。

その言葉に、シャノンはびくりと肩を揺らし、むっとした顔でセリウスを睨みつけた。


「なっ……!べ、別に苦手なんかじゃないわよ!ちょっと、日差しが強くて眩しいだけ!」


しっぽを逆立てて反論するが、その声は上ずっている。そんな彼女の強がりを、セリウスは面白そうに見つめていた。

波の音にはしゃいでいたまふゆも、二人のやり取りに気づいて振り返る。


「シャノン、やっぱり水、あかんのやね……」


心配そうに眉を寄せるまふゆ。プール授業の時もそうだった。きっと、彼女の本能が水を拒絶しているのだろう。


「べ、別に平気だって言ってるでしょ!それよりあんたたち、早く荷物置いて着替えてきなさいよ!いつまでそうしてるつもり!?」


シャノンは照れ隠しのように声を張り上げると、ぷいっとそっぽを向いて、さっさと保養施設の建物の方へ歩いて行ってしまった。


その後ろ姿が、逃げるように見えて、まふゆとセリウスは顔を見合わせて小さく笑った。


「ふふっ、素直じゃないんだから」

「ほんまやね。でも、きっとシャノンも楽しみなんやわ」


きっと彼女なりに、この三日間を皆と過ごしたいと思って、勇気を出して参加したのだろう。その不器用な気持ちが伝わってきて、まふゆの心は温かくなった。




「さて、と。俺たちも早く着替えてくるか。まふゆ、アリス。あんまりはしゃぎすぎて、濡れる前に風邪をひくなよ」


レオンハルトが二人の頭をくしゃり、と撫でる。


「うん!行こ、アリスさん!」


まふゆはアリスの手を引き、名残惜しそうにもう一度きらめく海を見つめてから、シャノンの後を追って建物へと向かうのだった。




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