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「先生!うち泳げへんのです!そしてたぶん、アリスさんも!」
まふゆは、ガンツの決定に安堵したのも束の間、根本的な問題を思い出して思わず声を張り上げた。その声はプールサイドに響き渡り、近くにいた生徒たちの注目を一斉に集めてしまう。
「何ですって?」
号令をかけていたピョンが、長いウサギの耳をぴくぴくと動かしながら振り返る。
「ええっと、つまり……二人とも、泳げないと?」
「はい……たぶん、その……」
まふゆは集まってくる視線に気圧され、語尾を濁らせながらこくりと頷いた。隣のアリスも、まふゆの不安を察したのか、きゅっと手を握る力を強める。
その率直すぎる申告に、周囲からくすくすと笑い声が漏れ始めた。
「Eランクなのに泳げないのかよ」
「アルビノエルフってお姫様みたいだな」
悪意はないのだろうが、好奇の目に晒されるのは心地の良いものではない。まふゆの頬が羞恥でじわりと熱くなった。
「騒がしいぞ」
その空気を断ち切ったのは、またしてもガンツの低く響く声だった。
彼は腕を組んだまま、呆れたようにため息をつく。
「泳げないなら、水に慣れるところから始めればいい。それだけの話だ。水鏡まふゆ、貴様は最上級の白魔術師だろう。自分の身体一つ、魔力で制御してみせろ」
その言葉は冷たく響くが、不思議とまふゆを落ち着かせる力があった。そうだ、自分には魔力がある。
「ガンツ先生の言う通りだ、まふゆ!」
いつの間にか隣に来ていたレオンハルトが、快活な笑顔でまふゆの肩を軽く叩いた。
「泳ぎなんてものはな、気合と根性でどうにでもなる!俺が手本を見せてやるから、よーく見てろ!」
「兄さん、君の教え方は脳筋すぎるよ」
セリウスも苦笑しながら近づいてくる。
「まふゆ、アリス。大丈夫。最初は誰だって怖いものさ。まずは水に浮く感覚から掴んでみよう。僕が手伝うよ」
「あーもう、男子はうるさいわね!」
シャノンが呆れたように割り込み、まふゆの腕を引いた。
「あんたら、初心者をいきなり深いとこに連れてく気?まずは足がつく浅いところで、水に顔をつける練習からでしょ。ほら、まふゆ、アリス、こっちに来なさい!」
水が苦手なはずのシャノンが、なぜか一番的確な指導案を提示し、二人をプールサイドの階段へとぐいぐい引っ張っていく。
「シャノちゃん、やっさしー!」
リリアがにこにこしながらその後ろをついてくる。
仲間たちに次々と囲まれ、助けの手を差し伸べられて、まふゆはぽかんとしていたが、やがてくすりと笑みがこぼれた。
一人で抱え込んでいた不安が、みんなのおかげでふわりと軽くなっていく。
「みんな……おおきに」
まふゆは感謝を込めて呟くと、シャノンに引かれるまま、アリスの手をしっかりと握って浅瀬へと向かう。




