14-5
その頃、壁一枚を隔てた男子更衣室もまた、独特の熱気に包まれていた。
むせ返るような湿気と男子生徒たちの汗の匂い。そして、これから始まるプール授業への期待感が入り混じった、騒々しい空間。
「うっし、着替えるか!」
レオンハルトは威勢のいい声を上げると、無造作に自分の箱を開けた。中から出てきたのは、彼の赤い髪に映える黒を基調とし、サイドに燃えるような赤いラインが入ったサーフパンツタイプの水着だった。王家の紋章が控えめに刺繍されており、彼の出自をさりげなく示している。
「へえ、なかなか悪くないじゃないか」
レオンハルトは満足げに頷くと、素早く着替え始める。しかし、その手つきとは裏腹に、その意識はどこか別の場所へと向いていた。
「……なあ、セリウス。女子たちの水着って、どんな感じなんだろうな」
不意に、彼は隣で着替えていた弟に、声を潜めて尋ねた。
「兄さん……。そんなこと、僕に聞かれても分からないよ」
セリウスは苦笑しながら、自分の水着を取り出す。彼の水着は、白地に淡い青のグラデーションが入った、理知的な雰囲気のハーフスパッツタイプ。派手さはないが、彼の落ち着いた性格によく合っていた。
「いや、だって気になるだろ!特に……まふゆのやつとか……」
レオンハルトはそこまで言って、はっと口をつぐむ。自分の考えが声に出てしまっていたことに気づき、少し気まずそうに視線を泳がせた。
「……確かに、彼女がどんな水着を着るのかは、少しだけ興味があるかもしれないね」
セリウスは静かに同意する。その声には、兄とは違う、穏やかだが確かな好奇心が滲んでいた。彼の脳裏にも、雪のように白い肌を持つ少女が、どんな装いで現れるのか、という想像が浮かんでいた。
二人がそんな会話を交わしている間、少し離れた場所で、ミカゲはただ黙々と着替えを進めていた。
彼が箱から取り出したのは、全身を覆うフルスーツタイプの黒い水着。それは遊ぶためのものではなく、水中での任務を遂行するための装備といった方が近かった。
肌の露出を極限まで抑え、動きやすさだけを追求した、彼らしい無駄のない一着だ。
彼はレオンハルトたちの会話に耳を貸すでもなく、表情一つ変えずに着替えていく。
しかし、その手が、一瞬だけ止まった。
彼の脳裏を過ったのは、特定の誰かの姿ではなかった。ただ、あの厄介な人形──アリスが、まふゆの隣にいるという事実。
そして、あの感情の読めない転校生に振り回されているであろう、白髪の少女の姿だった。
(……面倒なことになっていなければいいが)
その心中を誰に悟られることもなく、ミカゲは再び無心に着替えを再開する。
三者三様の想いを胸に、男たちは女子たちが待つプールサイドへと、歩みを進めるのだった。




