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夏の強い日差しが窓から差し込み、学園の廊下を白く照らし出す。
午後の授業、その場所はプール。生徒たちの足音は、期待と、一部の者にとっては憂鬱を乗せて、更衣室へと向かっていた。
「はぁ……なんであたしまで……」
女子更衣室の扉を開けるなり、シャノンは大きなため息をついた。
湿気を含んだ独特の塩素の匂いが、彼女の猫としての本能を刺激するらしい。耳と尻尾が力なく垂れ下がっている。
「ふふ、シャノンはほんまに水が苦手なんやね」
まふゆは苦笑しながら、隣で不思議そうにしているアリスに声をかける。
「さ、ここで水着に着替えるんよ。箱、開けてみよか」
更衣室のロッカーが並ぶ一角で、三人はそれぞれ渡された箱に手をかけた。まふゆは少しだけ高鳴る胸を押さえながら、自分の箱の蓋をそっと持ち上げる。
「わぁ……!」
思わず、小さな感嘆の声が漏れた。
中に入っていたのは、彼女の白い肌と髪を際立たせるような、清らかで美しい純白のセパレートタイプの水着だった。
トップスの胸元やスカートの裾には、銀糸で繊細な雪の結晶の刺繍が施されている。肩紐はレースのようになっており、アルビノエルフの神秘的な雰囲気を引き立てるデザイン。
背中側には、治癒魔術の詠唱を阻害しないよう、小さな翼のような装飾が控えめにあしらわれていた。
まさに、まふゆのために作られた一着だ。
「へえ、あんたの、結構いいじゃない」
シャノンが隣から覗き込み、少しだけ感心したように言う。そして、自分の箱もぶっきらぼうに開けた。
「……まあ、動きやすそうではあるわね」
シャノンの箱から現れたのは、彼女の快活なイメージにぴったりの、スポーティーなビキニタイプの水着だった。
色は鮮やかなピンクと紫のツートンカラーで、彼女の髪色とコーディネートされている。猫族の俊敏な動きを妨げないよう、余計な装飾は一切ない。
シンプルながらも、彼女の引き締まった身体のラインを美しく見せるであろうデザインだった。
そして、まふゆはアリスの手元に視線を移す。アリスは、箱の開け方すら分からなかったようで、まふゆが手伝ってようやく蓋を開けることができた。
その中から現れた水着に、まふゆとシャノンは息を呑んだ。
「な……に、これ……」
それは、水着というよりは、まるで人形のドレスのようだった。
淡い水色を基調としたワンピースタイプで、幾重にも重なったフリルとリボンがふんだんにあしらわれている。
まるで不思議の国のお茶会にでも出てきそうな、現実離れした愛らしさ。しかし、そのデザインは明らかに実用性を無視していた。
「……?」
アリスは水着を手に取り、ただ首を傾げている。
(エドウィン先生が用意したってことは……これも、何か意味があるんやろか……)
まふゆは、その過剰なまでの装飾に、アリスを『愛らしい人形』として扱おうとする、作り手の歪んだ意図を感じ取り、言いようのない不快感を覚えた。
「ま、まあ、とりあえず着替えてみよか。うち、手伝うから」
まふゆは複雑な気持ちを押し殺し、アリスに優しく微笑みかける。
三者三様の水着を手に、少女たちの少し特別なプール授業が始まろうとしていた。




