14-2
朝のホームルームが終わると、担任のエドウィンが教壇からにこやかに告げた。
「諸君、待ちかねた知らせだ。今日からプール授業が解禁されるよ。そして、五月に採寸した各自の特注水着が本日配布されることになった。午後の実技はプールで行うから、各自受け取って準備しておくように」
その言葉に、教室のあちこちから歓声が上がる。本格的な夏の訪れを告げるイベントに、多くの生徒が心を躍らせていた。
「プールか!ようやく身体を思いっきり動かせるな!」
レオンハルトが気持ちよさそうに伸びをする。
「水着もオーダーメイドなんて、さすがは王立学園だね」
セリウスも楽しげに微笑んだ。
そんな中、まふゆの視界の隅で、シャノンが目に見えてげんなりとした表情を浮かべているのが見えた。
「……最悪。なんで水なんかに入らなきゃいけないのよ……」
猫族である彼女にとって、水浴びなど苦行でしかないのだろう。その小さな呟きには、心からの憂鬱が滲んでいた。
まふゆはくすりと笑いながら、隣に座るアリスに視線を移す。
「アリスさん、プールやって。水着を着て、お水の中で遊ぶんやで」
「……ぷーる?」
アリスはこてんと首を傾げる。彼女の記憶にはない、新しい単語。
「うん。冷たくて気持ちええんよ」
まふゆが説明していると、水着の入った箱を持った係の生徒が、一人ひとりに名前を呼びながら配布を始めた。
「レオンハルト・アルヴァレイン」
「おう!」
「セリウス・アルヴァレイン」
「ありがとう」
「ミカゲ」
「……」
ミカゲは無言で受け取ると、中身に興味も示さず鞄に押し込んだ。
「シャノン」
「……どうも」
シャノンは呪いのアイテムでも受け取るかのように、不満げに箱を受け取る。
「水鏡まふゆ」
「はーい」
まふゆも自分の分を受け取った。どんなデザインになっているのか、少しだけ胸がときめく。
そして、係の生徒は当然のように続けた。
「アリス・リデル」
「え……?」
まふゆは思わず声を上げた。
アリスは転校してきたばかり。五月の採寸に参加しているはずがない。それなのに、なぜ彼女の水着が用意されているのか。
レオンハルトやセリウスも訝しげな表情で顔を見合わせる。ミカゲの視線が、一瞬だけ鋭く教壇のエドウィンに向けられた。
当のアリスは、自分が呼ばれたこともよく分かっていない様子で、ただまふゆの顔を見上げている。
「……アリスさん、あなたのやって」
まふゆは戸惑いながらも、係から箱を受け取ってアリスに手渡した。アリスはそれを不思議そうに受け取り、箱をしゃかしゃかと振っている。
(エドウィン先生が、あらかじめ手配してたってこと……?)
用意周到すぎるその事実に、まふゆは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
アリスの学園生活は、すべて見えない誰かの掌の上で進められている。その事実が、不気味な影となってまふゆの心に落ちた。
しかし、そんなまふゆの不安をよそに、午後の授業の時間は刻一刻と迫っていた。




