14-1
翌朝。
柔らかな朝日が窓から差し込み、部屋の中を優しく照らし始める。
いつもならその光で心地よく目覚めるはずのまふゆだったが、今朝は少し違った。
(……なんか、重い……?)
身じろぎしようとして、自分の身体に何かがぴったりと寄り添っていることに気づく。恐る恐る視線を下ろすと、そこには静かな寝息を立てるアリスの姿があった。
まふゆのパジャマの裾をぎゅっと握りしめ、まるで母親に甘える幼子のように身体を丸めて眠っている。その無防備な寝顔は、昨日の訓練で見せた破壊的な力の片鱗も感じさせなかった。
昨夜、アリスはなかなか寝付けなかった。ベッドに入っても落ち着かない様子で、ただ天井をじっと見つめているだけ。
困り果てたまふゆが「うちの隣で寝る?」と提案すると、こくりと頷き、するりと布団にもぐり込んできたのだ。
その小さな身体から伝わる温もりに、まふゆの胸に愛おしさが込み上げてくる。
(一人で寝るん、寂しかったんかな……)
そっと、アリスの金色の髪を撫でる。指先をくすぐる絹のような感触。この温もりを知ってしまったら、もう一人にはしておけない。
「ん……」
アリスが小さく身じろぎし、ゆっくりと瞼を開いた。ガラス玉のような薄青い瞳が、至近距離でまふゆを捉える。
「……おはよう、アリスさん」
まふゆが微笑みかけると、アリスはしばらくの間、まふゆの顔をじっと見つめていた。そして、ぽつりと呟く。
「……おはよう、まふゆ」
呼び捨て。そして、初めて返してくれた朝の挨拶。
その些細な変化に、まふゆの心は陽だまりのように温かくなった。
二人で装束に着替え、教室の扉を開けると、そこには既に見慣れた顔ぶれが揃っていた。
「よお、まふゆ。……それにアリスも、おはよう」
前の席から振り返ったレオンハルトが、少し複雑そうな表情で挨拶する。
「おはよう、二人とも。昨夜は何もなかったかい?」
隣の席のセリウスも、心配そうな眼差しを向けてきた。
「おはよう。うん、アリスさんはええ子で寝てたよ」
まふゆが笑顔で答えると、アリスはまふゆの後ろに隠れるようにしながら、こくりと頷く。
その時、まふゆの後ろの席から、低い声がかかった。
「……あんたは甘すぎる」
ミカゲが、呆れたような、それでいてどこか諦めたような声で言った。彼の目の下には、いつもより僅かに隈が浮かんでいるように見える。
(もしかして、ミカゲ……ずっと寮の近くに……?)
そう思い至ったが、とても本人には聞けなかった。
「フン。あんたもお人好しっていうか、お節介っていうか……」
少し離れた席から、シャノンが腕を組んでそっぽを向きながら言う。だが、その視線はちらちらとアリスの様子を窺っていた。
昨日の今日で、まだ皆の中にはアリスに対する警戒心が残っている。それは当然のことだった。
これからどうしていこうか。まふゆが思案していると、教室の扉が勢いよく開いた。
「おっはよー!まふゆん、アリリン!」
弾むような声と共に、リリアが駆け込んでくる。彼女はまふゆとアリスの元へやってくると、屈託のない笑顔を向けた。
「アリリン、昨日はちゃんと寝れたー?まふゆんの部屋、居心地よかった?」
矢継ぎ早の質問に、アリスはきょとんとしている。
リリアの天真爛漫な明るさは、教室に漂っていた重苦しい空気を少しだけ和らげてくれた。
こうして、まふゆとアリスの、そしてそれを見守る仲間たちの新しい一日が、ぎこちなくも静かに始まったのだった。




