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女子寮の廊下は、放課後の活気に満ちていた。
他の生徒たちの楽しげな話し声や笑い声が遠くに聞こえる中、まふゆは自分の部屋のドアノブに手をかける。
隣には、初めて見るものばかりで落ち着かないのか、きょろきょろと辺りを見回すアリスが立っていた。
「はい、アリスさん。ここがうちの部屋やで」
まふゆは努めて明るい声を出し、ゆっくりとドアを開けた。
カチャリ、と小さな音を立てて開いた扉の先には、こぢんまりとしながらも、持ち主の性格を映したかのように整頓された空間が広がっていた。
壁には桜の国の風景を描いたタペストリーが飾られ、窓辺には小さな鉢植えが置かれている。簡素なベッドと勉強机、小さなテーブルと椅子が二つ。
アルビノエルフらしく、全体的に白を基調とした、清潔感のある柔らかな雰囲気の部屋だった。
アリスは、部屋の入り口でぴたりと足を止め、物珍しそうに室内を眺めている。まるで未知の生物が巣穴を観察するかのように、その薄青い瞳は一点一点を確かめるように動いていた。
「さ、入って。狭いけど、くつろいでな」
まふゆはアリスの背中を優しく押し、部屋の中へと促す。
アリスは促されるまま、おそるおそる一歩を踏み入れた。そして、ふかふかとしたラグマットの感触が珍しかったのか、足元を不思議そうに見つめている。
「とりあえず、そこに座ってて」
まふゆは部屋の中央にある小さな椅子の一つを指さした。アリスは言われた通り、ぎこちない動きで椅子に腰掛ける。その姿は、まるで精巧に作られた人形のようだった。
まふゆは手早く自分の荷物をベッドの脇に置くと、アリスのために何か飲み物を用意しようと棚を開ける。
「ええと、お茶と……ハーブティーがあるけど、どっちがええかな?あ、でも甘い方が飲みやすいやろか……」
一人ごちながら、来客をもてなすことに慣れていない自分に少しだけ苦笑する。
「……あなたの、においがする」
アリスがぽつりと呟いた。
「え?」
まふゆが振り返ると、アリスはくん、と小さく鼻をひくつかせていた。
「このへや。あなたのにおいで、いっぱい」
その言葉には、何の他意も含まれていない。ただ、感じた事実をそのまま口にしただけなのだろう。
「う、うちの匂い……?」
そう言われて、まふゆは思わず自分の服の匂いを嗅いでしまう。不意打ちの言葉に、頬がぽっと熱くなるのを感じた。
「……きらいじゃない」
アリスは続けた。そして、先ほどまで硬かった表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。
「ここにいると、また、ここが……」
そう言って、彼女は再び自分の胸にそっと手を当てる。
その仕草に、まふゆの胸がきゅっと締め付けられた。
ここは、彼女にとって初めての「安心できる場所」なのかもしれない。
(そっか……)
まふゆは微笑むと、少し甘い香りのするカモミールティーの茶葉を選んだ。
「温かいお茶、淹れるから。きっと、もっとあったかい気持ちになると思うで」
湯を沸かす小さな音だけが、静かな部屋に響く。
外の喧騒から切り離されたこの空間で、二人の少女の奇妙な共同生活が、静かに始まろうとしていた。
第十三話・了




