13-12
光の奔流は、今度はレオンハルトを襲おうとするミカゲごと、薙ぎ払おうとしていた。
「──っ!?」
ミカゲは背後から迫る圧倒的な魔力の奔流を肌で感じ、咄嗟にレオンハルトへの攻撃を中断。影に溶け込むかのような俊敏さでその場から跳び退いた。
アリスの放った光は、先程までミカゲがいた空間を虚しく通過し、訓練場の壁に再び深々と突き刺さる。轟音と共に石壁が砕け散り、凄まじい衝撃波が訓練場全体を揺らした。
「おい、あんた……!」
ミカゲが鋭い声でアリスを睨む。命令違反、そして味方である自分ごと敵を撃滅しようとした、常軌を逸した行動。
その黒い瞳には、初めて焦りと怒りの色が混じっていた。
しかし、アリスはそんなミカゲの視線にも気づかず、ただ銃を構えたまま、こてんと首を傾げた。
「……邪魔だったから」
悪びれる様子もなく、ただ事実を告げるかのように、ぽつりと呟く。
彼女にとって、レオンハルトを狙うミカゲは、単なる「邪魔なもの」にしか見えなかったのかもしれない。
「な……なんやの、あの子……」
まふゆは目の前の光景が信じられず、呆然と呟いた。敵も味方も関係ない。
ただ、目についたものを破壊する。それはもはや戦闘ではなく、純粋な暴力の行使だった。
「ちっ、こいつはまずいな……!」
レオンハルトもまた、冷や汗を流しながら体勢を立て直す。仲間割れは好機だが、あの無差別な攻撃は、いつ自分たちに向けられるか分からない。
「勝負あった!そこまでだ!」
ガレオスの雷鳴のような声が、試合の終了を告げた。
「ミカゲ、アリスペアの反則負けだ!味方を攻撃する奴があるか!」
ガレオスは苦虫を噛み潰したような顔で、アリスとミカゲの元へ歩み寄る。
「アリス・リデル!てめえ、命令は一つしか聞いてなかったはずだろ!」
「……ミカゲが『撃て』って言った」
「二度目は言ってねえだろうが!」
ガレオスの怒声にも、アリスは全く動じない。まるで、なぜ怒られているのかすら理解できない、という表情だった。
ミカゲは深く舌打ちをすると、ひび割れた魔法銃をアリスの手から取り上げた。
「……もうこいつは使わせるな。制御不能の欠陥品だ」
その声は氷のように冷たく、アリスに向けられた視線はこれまでにないほど険しい。それは、ただの警戒ではない。
予測不能な脅威に対する、明確な拒絶の色を帯びていた。
「まふゆ、大丈夫か?」
レオンハルトが駆け寄ってくる。
「う、うん……大丈夫やけど……」
まふゆは頷きながらも、視線はアリスから外せなかった。
孤立し、誰の言葉も届かないかのように佇む小さな少女。彼女のあの行動は、本当にただの気まぐれだったのだろうか。
それとも、あのガラス玉のような瞳の奥に、何か別の意図が隠されていたのだろうか。
「……はあ。今日の訓練はめちゃくちゃだ。全員、後片付けをして解散!」
ガレオスは大きなため息をつき、頭をガシガシと掻きながら宣言した。
生徒たちは、安堵のため息を漏らしながらも、どこか後味の悪さを感じていた。
まふゆは、一人ぽつんと立ち尽くすアリスの背中を、ただ黙って見つめることしかできなかった。
ミカゲの鋭い拒絶。制御不能な力。彼女の周りには、分厚いガラスの壁があるように感じられた。
(うち……ほんまにアリスさんと、仲良くなれるんやろか……)
胸に生まれたのは、昼休みの時とは違う、冷たくて重い不安の塊だった。
波乱に満ちた転校生の初日は、大きな傷跡と、さらに深まった謎を残して、静かに幕を閉じようとしていた。




