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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十三話 不思議の国の転校生
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13-10




訓練場に満ちる焦げ臭い匂いと、壁に穿たれた巨大な穴。そして、手の中でひび割れた銃を不思議そうに見つめる、小さな少女。


そのあまりにも現実離れした光景を前に、生徒たちはただ立ち尽くすばかりだった。




「……は、はは……はははは!こいつは傑作だ!」


静寂を破ったのは、ガレオスの豪快な笑い声だった。彼は唖然とした表情から一転、腹を抱えて笑い始めた。その目には、恐怖や困惑ではなく、純粋なまでの興奮と歓喜が宿っている。


「ガンツの奴が言っていた意味が分かったぞ!なんだ、そのデタラメな魔力は!まるで赤ん坊が振り回す大槌だな!」


ガレオスは笑いながらアリスに近づき、その小さな頭を大きな手でガシガシと撫でた。アリスは迷惑そうに身をよじるが、巨漢の教師には敵わない。


「おい、ひよっこども!いつまで呆けている!今のを見たか!あれが制御されていない力の末路だ!威力だけあっても意味がねえ!だが……」


ガレオスはそこで言葉を切り、獰猛な笑みを浮かべて生徒たちを見回した。


「……磨けば光るどころの騒ぎじゃねえ!面白い!実に面白い!アリス・リデル、お前は今日から俺が特別メニューでしごいてやる!覚悟しておけ!」

「……しごく?」


アリスは初めて聞く単語に、こてんと首を傾げる。その無垢な反応が、かえって事態の異常さを際立たせていた。


「ま、まふゆ……。あの子、本当に何者なの……?」


隣にいたシャノンが、青ざめた顔で囁く。


「うちにも……わからへん……。ただ、ものすごい力を持ってることだけは……」


まふゆもまた、目の前の光景から目が離せずにいた。あれほどの力を、あの小さな体でどうやって生み出しているのか。

そして、なぜ彼女は自分の力について何も知らないのか。疑問ばかりが頭を巡る。




「……おい、教師」


不意に、壁際から低い声が響いた。ミカゲだった。彼はいつの間にか壁から離れ、ガレオスとアリスのほうへ歩み寄っていた。


「そいつを訓練に参加させるのは危険だ。周りを巻き込む」


ミカゲの言葉は、懸念というよりも、断定に近い響きを持っていた。その黒い瞳は、アリスの持つ底知れない危険性を正確に見抜いている。


「ほう?お前がそう言うか、ミカゲ。確かにその通りだ。今のこいつを模擬戦に出せば、相手がミンチになりかねん」


ガレオスはミカゲの意見をあっさりと認めると、にやりと笑った。


「しかし、今日の模擬戦、アリスは特別に参加を許可する。ただし──」


ガレオスはぐるりと訓練場を見渡し、一人の生徒を指さした。


「──お前と組むなら、だ。ミカゲ」


その指名は、あまりにも唐突だった。

訓練場に、再び緊張が走る。




「……は?」


ミカゲから、珍しく素の反応が漏れた。


「冗談はよせ。こいつの制御なんかできるか」

「制御する必要はねえ。お前なら、こいつが暴発する前に対処できるだろう?あるいは、上手く誘導して敵にだけ向けることもな。お前のその殺気立った動きと、こいつの規格外の火力が組み合わさったらどうなるか……俺は見てみたくてたまらんのだ!」


ガレオスの目は、まるで極上の獲物を見つけた狩人のように爛々と輝いていた。


ミカゲとアリス。

気配を完全に消す暗殺者と、存在そのものが異常なほどの魔力を放つ少女。

静と動。闇と光。あまりにも対照的で、想像もつかない組み合わせ。


「……うち、反対です。ミカゲもアリスさんも、危ないです!」


まふゆは思わず声を上げていた。

ミカゲに何かあれば。アリスがその力で自分を傷つけてしまえば。どちらも、まふゆにとっては見過ごせないことだった。


しかし、ガレオスはまふゆの制止を聞き入れず、ただ面白そうにミカゲの返事を待っている。


ミカゲは深く舌打ちをすると、アリスを一瞥した。アリスは、相変わらず状況を理解していない様子で、ただミカゲを見つめ返している。




やがて、ミカゲは諦めたように短く息を吐いた。


「……いいだろう。ただし、何かあれば俺の判断でこいつを止める。文句は言うな」

「それでこそだ!」


ガレオスの決定に、生徒たちは固唾を飲んで成り行きを見守る。


こうして、戦闘訓練は「暗殺者と歩く戦略兵器」という、前代未聞のペアの誕生という、波乱の幕開けとなったのだった。




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