13-9
昼休みの賑やかでちぐはぐな時間はあっという間に過ぎ去り、午後の授業の開始を告げるベルが学園に響き渡った。
次に控えているのは実戦形式の戦闘訓練だ。
生徒たちはそれぞれ動きやすい服装に着替え、広大な訓練場へと集まっていた。
「うおおし!昼飯食って力がみなぎってきたぜ!」
レオンハルトは愛用の長剣を軽く振り、闘志をみなぎらせていた。
その隣で、セリウスは魔導書を片手に冷静にストレッチをしている。シャノンは身軽な装束で、しなやかな猫のように身体をほぐしていた。
まふゆもまた、深呼吸をする。心臓の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。
戦闘は得意ではないけれど、仲間を守るためには、自分も強くならなければならない。その思いが、まふゆを前へと突き動かしていた。
教室の後方では、ミカゲが壁に寄りかかり、静かに目を閉じて気配を整えている。彼の周りだけ、空気がシンと張り詰めているようだった。
そして、その少し離れた場所に、アリスが一人ぽつんと立っていた。
彼女は学園から支給された簡素な訓練服に着替えているが、その小さな体には少し大きいようだ。
手には、支給品リストの中から選んだのであろう、一丁の旧式な魔法銃が握られていた。弾の代わりに魔力を込めて撃ち出すタイプの武器だが、扱うにはそれなりの技量がいる。
「全員集まったか、ひよっこども!」
その時、訓練場の入り口からガレオスが、地響きのような足音と共に現れた。
「今日の訓練は、二対二の模擬戦だ!連携の基礎を体に叩き込んでもらう!だがその前に……」
ガレオスの視線が、生徒たちの中から一人の少女を見つけ出し、ぴたりと止まった。
「そこのチビ。お前が転校生のアリス・リデルか。ガンツの奴から面白い話を聞いたぞ」
ガレオスはニヤリと口角を上げ、アリスに近づいていく。その巨体が見下ろすと、アリスの華奢さがより一層際立った。
「どれ、その規格外の魔力とやらを、この俺に見せてみろ。まずはそこの的に、そのオモチャで一発撃ってみな」
ガレオスが指さしたのは、訓練場の奥に設置された分厚い金属製の的だった。
アリスは言われるがまま、こつ、こつ、と的の前まで歩いていく。そして、慣れない手つきで魔法銃を構えた。
その構えはあまりにもぎこちなく、今にも銃を落としそうに見える。
「……こう?」
アリスは小首を傾げながら、引き金に指をかけた。
まふゆは心配そうにその様子を見守る。
「アリスさん、大丈夫かな……銃なんて、使ったことあるんやろか」
その呟きは、次の瞬間に起こった現象によって、驚愕の息と共に掻き消された。
アリスが引き金を引いた瞬間、銃口から放たれたのは、小さな魔力の弾ではなかった。
──極光のような、凄まじい光の奔流。
午前中に見たものと同質でありながら、より指向性を持ち、破壊の意思を帯びた純粋なエネルギーの塊が、空間そのものを震わせるほどの轟音と共に迸ったのだ。
光は一直線に分厚い金属の的へと突き進み、そして、何の抵抗もなくそれを貫通した。
融解した金属が飛沫となって飛び散り、光が通り過ぎた後の壁には、巨大な風穴が穿たれていた。煙が立ち上り、焦げ付いた匂いが訓練場に充満する。
「…………」
訓練場は、水を打ったように静まり返った。
レオンハルトは剣を握りしめたまま呆然と立ち尽くし、セリウスは信じられないといった表情で口元を覆っている。
シャノンも、リリアも、他の生徒たちも、誰一人として声を発することができない。
ガレオスでさえ、その顔から獰猛な笑みを消し、唖然とした表情で黒煙の上がる壁と、銃を構えたままのアリスを交互に見ている。
「……すごい威力だ……。だが、魔力の制御が全くできていない。暴発に近い」
壁際で静観していたミカゲが小さく呟く。彼の黒い瞳は、ただ一点、アリスの手の中にある魔法銃を見つめている。
銃身は凄まじい魔力に耐えきれず、赤熱し、ひび割れているのが見て取れた。
アリス本人は、自分が何をしでかしたのか全く分かっていない様子で、煙が立ち上る銃口を不思議そうに覗き込んでいる。
「……こわれた」
ぽつりと呟かれたその一言が、この異常な事態の締めの言葉となった。




