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──その瞬間、信じられない光景が広がった。
アリスが触れた途端、魔導ユニットに刻まれた魔法陣が、今まで誰も見たことのないほどの眩い光を放ち始めたのだ。
それはまるで、小さな太陽が生まれたかのような、純粋で圧倒的な光。
「なっ……!?」
ガンツが初めて驚愕の声を上げる。
教室中の生徒たちが、そのあまりにも強大な魔力の輝きに目を見開いた。
光は青白く、そしてどこまでも清浄で、まふゆが使う白魔術の光とも似ているようで、けれど根本的に何かが違う。
レオンハルトは驚きに目を見張り、セリウスは信じられないといった表情で光の奔流を見つめている。
そして、まふゆの背後。それまで一切の無関心を通していたミカゲが、その黒い瞳を鋭く細め、教壇のアリスを──その尋常ならざる魔力の光を、初めて真剣な眼差しで捉えていた。
光は数秒で収まったが、教室は静まり返ったままだった。
アリスは、何事もなかったかのようにプレートから手を離し、またこてん、と首を傾げている。
「……アリスは、アリス」
再び繰り返されたその言葉は、先程とは全く違う重みを持って、静まり返った教室に響き渡った。
ガンツは鉄面皮を崩し、信じられないものを見る目でアリスを見つめている。
彼の長年の教師生活の中でも、これほどの魔力を持つ存在に遭遇したことはなかった。しかも、その魔力は既存のどの体系にも属さない、異質で、そしてあまりにも純粋なものだった。
「……席に戻れ」
ガンツは絞り出すような声でそう告げた。彼の声には、動揺を隠しきれない響きが混じっている。
アリスは言われた通りにこくりと頷くと、また無機質な足取りで自分の席へと戻っていく。クラス中の視線が彼女に突き刺さるが、本人は全く気にしていない様子だった。
「……何なんだ、今のは……」
レオンハルトが呆然と呟く。
「信じられない魔力量だ……。それに、あの質……まるで、魔力の原液そのものみたいだった……」
セリウスもまた、興奮と困惑が入り混じった表情で、アリスが座った席を見つめている。
まふゆはごくりと喉を鳴らした。アルビノエルフである自分も、魔力量には自信があった。
けれど、今アリスが放った光は、自分のそれとは次元が違うように感じられた。あれは、果たして本当に魔術なのだろうか。
(アリスさん……一体、何者なんやろ……)
まふゆがそんなことを考えていると、背後から静かな、けれど確かな声が聞こえた。
「……おい」
声の主はミカゲだった。彼が授業中に口を開くのは、極めて珍しい。
まふゆが振り返ると、ミカゲは教壇ではなく、隣の席に座ったアリスをじっと見つめていた。
その黒い瞳には、これまで見たことのない強い光──警戒と、そしてそれ以上の、何かを探るような鋭い光が宿っている。
「あんた、何者だ」
ミカゲは静かに、しかし有無を言わせぬ響きで問いかけた。
アリスはゆっくりとミカゲの方を向き、ガラス玉のような瞳で彼を見つめ返す。
「……あなたは、だれ?」
質問に質問で返すアリス。その瞳には、やはり何の感情も浮かんでいない。
「質問に答えろ」
ミカゲが低い声で重ねる。二人の間に、目に見えない火花が散るような緊張が走った。
「私語を慎め」
ガンツの冷たい声が、二人の間に割って入る。
ミカゲはちっと小さく舌打ちをすると、アリスから視線を外し、再び正面を向いてしまった。アリスもまた、興味を失ったように窓の外へと視線を戻す。
授業は再開されたが、教室の空気は完全に変わってしまっていた。
ガンツの声も、どこか上の空に聞こえる。誰もが、あの小さな転校生が秘めた、規格外の力に心を奪われていた。
まふゆは胸のざわめきを抑えられないでいた。
ミステリアスな転校生、アリス・リデル。
彼女の存在は、この学園に、そしてまふゆたちの関係に、新たな波乱を呼び込む予兆のように思えてならなかった。




