13-2
一限目の授業が終わるベルが鳴ると同時に、教室は再びざわめきを取り戻した。
そしてその喧騒の中心は、間違いなくミステリアスな転校生、アリス・リデルだった。
「ねえ、アリスちゃんってどこから来たの?」
「前の学校ではどんなこと勉強してたの?」
「すごい綺麗な髪!エルフなの?」
「アリス・リデルって昔読んだ絵本の主人公の名前とおんなじ!由来はそこからなのかな?」
好奇心旺盛な生徒たちが、あっという間にアリスの席を取り囲む。質問の雨が降り注ぐが、アリスは相変わらずぼんやりとした表情で、ただ静かに座っているだけだった。
無数の視線と声に晒されても、その薄青の瞳は揺らぐことなく、まるでそこに誰もいないかのように虚空を見つめている。
まふゆは、少し離れた場所からその光景を眺めていた。
(すごい人気……でも、少し困ってるように見えるかも)
そう思い、声をかけようか迷っていると、隣からセリウスが話しかけてきた。
「不思議な子だね、あの子。種族もよくわからない」
セリウスは腕を組み、探るような視線をアリスに向けている。彼の魔術的な知識をもってしても、アリスからは何も読み取れないのかもしれない。
「ああ。魔力の流れも感じられない。かといって、人間特有の生命力とも違う……何だ、あいつは」
振り返ったレオンハルトも、眉間に皺を寄せている。彼もまた、アリスの正体不明さに警戒心を抱いているようだった。
まふゆは、隣の席に座るミカゲに視線を移す。彼は人だかりにもアリスにも一切興味を示さず、窓の外を静かに眺めているだけだった。その横顔からは、何も読み取ることはできない。
「……うち、ちょっと声をかけてみよかな。一人で大変そうやし」
心配になったまふゆがそう言って席を立とうとした、その時だった。
「……うるさい」
鈴が鳴るような、しかし氷のように冷たい声が、教室の喧騒を切り裂いた。
声の主は、人だかりの中心にいたアリスだった。
彼女はゆっくりと顔を上げ、自分を取り囲む生徒たちを一人一人、ガラス玉のような瞳で見つめる。
「あなたたち、だれ?アリス、知らない人とはなしたくない」
先程までの無表情が嘘のように、その顔にははっきりと「不快」という感情が浮かんでいた。
あまりの変わりように、周りの生徒たちは息を呑み、たじろぐ。
「ご、ごめん……」
「そんなつもりじゃ……」
気圧された生徒たちが蜘蛛の子を散らすように去っていき、アリスの周りには静寂が戻る。
彼女はふう、と小さくため息をつくと、また元の無表情に戻り、机に頬杖をついてしまった。
教室には気まずい空気が流れる。
まふゆは、どうすることもできず、ただアリスの後ろ姿を見つめることしかできなかった。




