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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十二話 少女らは修学旅行へ-後編-
152/237

12-7




静かな井戸のそばで、まふゆとミカゲは並んで腰掛けていた。


心地よい風が吹き抜け、まふゆの白い髪を優しく揺らす。穏やかで、満ち足りた時間。

昨日までの不安や恐怖が、嘘のように遠くに感じられた。


「……よかったのか」


沈黙を破ったのは、ミカゲだった。


「へ……?」

「連れてきておいて何だが……レオンハルトたちと一緒の方が、楽しかったんじゃないのか」


ぽつりと呟かれた言葉に、まふゆは驚いてミカゲの顔を見上げた。彼は井戸の底でも覗き込むように、視線を下に落としている。その横顔はどこか不機嫌そうにも、寂しそうにも見えた。


「ううん、そんなことない。みんなといるのも楽しいけど、ミカゲと二人でこうしているのも……すごく、嬉しい」

「……」

「うち、ミカゲに、ちゃんとお礼が言いたかったから」

「礼……?」


ミカゲが訝しげに眉をひそめる。


「うん。昨日、助けてくれてありがとう。白檻会の人たちから、守ってくれて……。イースターの時も、そうやったね。ミカゲは、いつも……うちが一番怖い時に、助けてくれる」


まふゆが真っ直ぐな言葉を紡ぐと、ミカゲは少しだけ気まずそうに視線を彷徨わせた。


「……別に。あんたを守るのは、当然だ」

「ふふ、そういうところ、ミカゲらしい」


冷たい口調に隠された優しさが伝わってきて、まふゆは小さく笑った。

そして、自分の手のひらを開いてみせる。そこには、先ほど買ったばかりの白い星のチャームが乗っていた。


「これ、うちのは、白」

「……ああ」

「ミカゲは、黒やったね」

「……」


ミカゲは答えず、ただ懐に手を入れる。彼もまた、あの黒い星を大事にしまっているのだろうか。そう思うと、胸が温かくなった。


「白と黒……正反対やね。まるで、うちとミカゲみたい」

「……」

「でも、こうして並んでると、なんだかお似合いな気もする。……なんて、うちが言うのも変かな?」


まふゆが少し照れながら言うと、ミカゲは初めて、ふ、と息だけで笑った。

そのほんの僅かな変化に、まふゆの胸がきゅんと高鳴る。




「……あんたが光なら、俺は影でいい」

「影……?」

「光が強ければ、影もまた濃くなる。どこまでも、あんたについていく」


それは、まるで愛の告白のような、静かで、けれど絶対的な誓いの言葉だった。

彼の言葉の意味を完全に理解できたわけではない。けれど、その底にある深い執着と愛情が、まふゆの心を強く揺さぶった。


「ミカゲ……」


言葉を失うまふゆの頬に、ミカゲの指先がそっと触れる。骨張っているけれど、ガラス細工の時と同じ、不器用で優しい手。


彼の黒い瞳が、すぐそこにある。吸い込まれそうな、深い闇の色。

まふゆは、目を逸らすことができなかった。


二人の間の空気が、甘く、そして少しだけ切ないものに変わっていく。


ミカゲの顔が、ゆっくりと近づいてきて──




──その時だった。


「おーい!そろそろ集合時間だぞー!」


遠くから、レオンハルトの大きな声が響いた。

はっとして我に返った二人は、まるで弾かれたように慌てて距離を取る。

まふゆの心臓は、破裂しそうなほど速く、そして激しく脈打っていた。


「……行くぞ」


ミカゲは何もなかったかのように立ち上がると、まふゆに手を差し出した。その耳は、ほんのりと赤く染まっている。


「う、うん……!」


まふゆも、顔から火が出そうなほど熱いのを感じながら、その手を取った。


井戸の広場を後にする二人。

繋がれた手は、どちらも少しだけ汗ばんでいた。


あとほんの数秒、レオンハルトの声が遅かったらどうなっていたのだろう。

そんな想像が頭をよぎり、まふゆはぶんぶんと首を振って、甘い痺れを振り払おうとした。




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