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「……あーし、諦めないから!」
「……え?」
涙で濡れた顔を上げ、リリアが作った精一杯の笑顔。それは、今にも崩れてしまいそうなほど儚く、しかし、強い意志の光を宿していた。
レオンハルトは、彼女の予想外の言葉に、思わず目を見開く。
「レオンハルト様が、まふゆんのことを好きなのは、もうわかったけど!でも、あーしのこの気持ちは、そんな簡単になくらないし!」
リリアはぐい、と涙を腕で拭う。もう、泣いてばかりの自分は終わりだ。
「だから……いつか、レオンハルト様が振り向いてくれるように、あーし、もっともっと頑張る!もっと強くなって、もっと可愛くなって……まふゆんにも負けないくらい、素敵なレディになってみせるし!」
それは、失恋の痛みの中から生まれた、彼女の新しい決意だった。
ただ泣いて諦めるのではなく、この恋を自分の成長の糧にする。大好きな人の隣に立つにふさわしい自分になるための、これは始まりなのだ。
その真っ直ぐな瞳と、力強い宣言に、レオンハルトは心を打たれた。
今まで、リリアのことをダークエルフらしくない、少し気弱で、けれど明るく優しい女の子としか見ていなかった。
だが、今目の前にいる彼女は、一人の強い意志を持った女性だった。
「……そうか」
レオンハルトは、困ったように、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。
「それは……手強い相手になりそうだな」
その言葉は、彼女の想いを茶化すものではなく、一人の人間として、その決意を真正面から受け止めた証だった。
「へへっ、そーでしょー?」
リリアは、満面の笑みを浮かべた。
たった今、自分の恋は終わった。けれど、新しい恋が始まったのだ。
片想いでもいい。彼の視界の片隅に、自分の存在が映るのなら。いつか、「ただの友達」から、特別な誰かになれる日が来るかもしれない。
「……そろそろ、時間だな」
レオンハルトが空を見上げて言う。集合時間が、刻一刻と近づいていた。
「う、うん!ごめん、時間取らせちゃって……」
「いや。……話してくれて、ありがとう」
ベンチから立ち上がり、二人は並んで歩き出す。
気まずさはなく、そこには不思議と穏やかで、温かい空気が流れていた。
「あ、あの、レオンハルト様!」
「ん?」
「これからも、普通に……お話、してくれるー……?」
おずおずと尋ねるリリアに、レオンハルトは当たり前だろう、とでも言うように笑った。
「もちろんだ。俺たちは、共に戦う仲間なんだからな」
「────うんっ!」
リリアの心に、温かい光が灯る。
仲間。今はそれでいい。そこから始めればいいのだ。
涙で洗い流された心は、澄み渡る青空のように晴れやかだった。
この短い修学旅行で、リリア・ノクティスは、一つの恋を終え、そして一つの強い恋を始めたのだった。




