12-5
リリアに導かれるまま、レオンハルトは賑やかな大通りから外れた、人通りの少ない石畳の小道へと足を踏み入れた。ミカゲがまふゆを連れて行ったのとは逆の方向だった。
道の突き当たりは、小さな広場のようになっており、その片隅には古びた木製のベンチがぽつんと置かれている。
柔らかい日差しが降り注ぎ、どこからか花の甘い香りが漂ってくる、静かで穏やかな場所だった。
「……それで、話とは何だ?」
レオンハルトはベンチを指し示しながら、優しく尋ねた。リリアのただならぬ様子から、ただの世間話でないことは明らかだった。
「う、うん……!」
リリアはこくりと頷くと、ベンチに浅く腰掛けた。レオンハルトもその隣に座る。
心臓の音が、うるさいくらいに耳の奥で響いていた。
ぎゅっと握りしめた手の中には、緑色の星のチャームがある。その冷たい感触だけが、今のリリアの心の支えだった。
「あ……その……」
いざ二人きりになると、練習してきたはずの言葉が喉の奥でつかえて出てこない。
レオンハルトの赤い髪が、日差しを浴びてキラキラと輝いている。その真剣な眼差しで見つめられると、顔に熱が集まっていくのがわかった。
(ダメ、ちゃんと言わなきゃ……!このままじゃ、何も始まらない……!)
リリアは一度、ぎゅっと目を瞑り、それから意を決して顔を上げた。
潤んだ赤い瞳が、真っ直ぐにレオンハルトを捉える。
「あーし……レオンハルト様のことが、好きです!」
絞り出すような、しかし、凛とした声だった。
その言葉は、静かな広場にはっきりと響き渡った。
「……え?」
レオンハルトは、予想外の言葉に、純粋に驚いて目を見開いた。
白檻会のことや、エドウィンのことについて、何か伝えたいことがあるのだとばかり思っていた。まさか、告白されるとは夢にも思わなかったのだ。
リリアは、レオンハルトの反応に心臓が凍りつくのを感じながらも、必死に言葉を続けた。
「魔物に襲われた時……助けてくれた時から、ずっと……!レオンハルト様のことばっかり、考えちゃって……。いつも堂々としてて、みんなを引っ張ってくれて、強くて、優しくて……!」
堰を切ったように、想いが溢れ出す。
「まふゆんのことが好きなんだって、わかってる……!あーしなんか、全然敵わないってことも……!」
声が震え、視界が涙で滲む。それでも、リリアは想いを伝えることをやめなかった。
「でも、それでも……!この気持ちを、どうしても伝えたかった!ただ、知っててほしかった……!」
「……リリア」
レオンハルトが、困惑と、そして申し訳なさが入り混じった声でリリアの名前を呼ぶ。
リリアは、ぶんぶんと首を横に振った。
「返事はいらなくて!困らせたいわけじゃなくて……ただ……ただ、このまま修学旅行が終わっちゃうのが、嫌だっただけで……」
そこまで言うと、ついに堪えきれなくなった涙が、ぽろぽろと頬を伝い落ちた。
「ご、ごめ、急にこんな……忘れて……」
「忘れるわけないだろう」
リリアの言葉を遮ったのは、穏やかで、しかし真剣なレオンハルトの声だった。
彼は、リリアの目から溢れる涙を、そっと親指で拭った。その不意の優しさに、リリアの心臓が大きく跳ねる。
「……ありがとう、リリア。お前の気持ち、すごく嬉しい。……男として、これ以上光栄なことはない」
レオンハルトは、真っ直ぐにリリアの瞳を見つめて言った。
「だけど……お前が言う通り、俺にはまふゆがいる。だから、お前の気持ちに応えることはできない。……すまない」
それは、誠実で、そして残酷な答えだった。
わかっていたことだ。それでも、直接告げられると、胸が張り裂けそうに痛い。
リリアは唇を強く噛みしめ、これ以上涙がこぼれないように、ぐっと堪えた。
「……うん」
やっとのことで、それだけを絞り出す。
「……聞いてくれて、ありがとう」
玉砕覚悟の告白。
結果は、わかっていたはずの、失恋。
それでも、リリアの胸の中には、不思議なほどの清々しさがあった。言えなかった想いを抱えて苦しむよりも、ずっといい。
この痛みも、この涙も、自分が本気で恋をした証なのだから。




