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「……あの、イリヤ先生。この学園にはうち以外のアルビノエルフは……おらへんのですか?」
まふゆは、授業が始まる前のわずかな時間を見計らって、思い切ってイリヤに尋ねた。
イリヤはまふゆの問いに、少し驚いたように瞬きをしたが、すぐに悲しげな色を目に宿し、ゆっくりと首を横に振った。
「……いいえ。残念ながら、現在この学園に在籍しているアルビノエルフは、水鏡さん、あなただけです」
その言葉に、まふゆの胸がちくりと痛む。淡い期待が、脆くも崩れ去った瞬間だった。
「アルビノエルフは……ご存知の通り、千年に一度と言われるほど希少な存在です。私自身、文献でしかその存在を知りませんでした。あなたにお会いできて、本当に光栄に思っています。……ですが、その希少さ故に、悪意ある者たちに狙われやすいのもまた事実……」
イリヤの声が少しだけ翳る。その視線には、まふゆを案じる深い優しさが含まれていた。
「そっかぁ……。じゃあ、まふゆんがこの学園で唯一のアルビノエルフなんだね。なんか、すごい!」
隣で話を聞いていたリリアが、屈託のない声で言う。その明るさが、沈みかけた場の空気を少しだけ和らげてくれた。
「だからこそ、水鏡さん。あなたは自分の身を守る術をしっかりと学ばなくてはなりません。あなたのその力は、多くの人を救うことができますが、同時に多くの人の羨望や嫉妬、そして……悪意を招くこともあるのですから」
イリヤは諭すように、静かに、しかし力強く告げた。その言葉は、教師として、そして同じエルフ族の血を引く者としての、心からの忠告のように響いた。
「……はい」
まふゆは俯き、小さく返事をすることしかできなかった。
唯一の存在であるという事実が、誇らしさよりも、むしろ重たい鎖のように感じられた。広大な学園の中で、たった一人ぼっちなのだと、改めて突きつけられた気がした。
「……それにしても、治癒科を選択しはるのは、女の子ばっかりなんですね」
その空気を変えるかのようにまふゆが教室を見渡しながらそう呟くと、リリアが「あ、ほんとだ〜」と納得したように頷いた。
確かに、この特別講義室に集まっているのは、まふゆとリリアを含め、皆が女子生徒だった。おっとりとした雰囲気のエルフの少女や、小柄で可愛らしい獣人の子もいる。
「そうですね。治癒術や支援術は、繊細な魔力コントロールを必要としますから、どちらかというと女性の方が適性がある場合が多いようです。もちろん、男性の優れたヒーラーもたくさんいますけれど」
教壇に立つイリヤ先生が、穏やかに微笑みながら答えてくれる。
「それに、ほら、男の子ってやっぱりさー、剣で戦ったり、ドカーンって派手な魔法使ったりする方がカッコイイって思うんじゃない?地味に後ろで回復するより、前で目立ちたい、みたいな?」
リリアがいたずらっぽく片目をつむいで付け加える。
「確かに……レオンハルトさんなんかは、特にそうかもしれへんね」
まふゆは、豪快に剣を振るっていたレオンハルトの姿を思い出し、くすりと笑った。
「そうそう!ああいうタイプは絶対前線に出たい派だって!セリウス様は……うーん、どっちもできそうだけど、やっぱり魔法で戦う方が好きそうかな〜」
リリアは楽しそうにA組の男子生徒たちのことを分析している。彼女はB組だが、入学式などで彼らのことを見ていたのだろう。
「ふふ。ですが、忘れないでください。前線で戦う者たちがどれだけ強くても、それを支えるヒーラーがいなければ、戦いは続きません。私たちの役割は、決して地味なものではないのですよ。むしろ、パーティーの生命線そのものですから」
イリヤ先生の静かだが凛とした言葉に、教室にいた生徒たちが皆、きゅっと表情を引き締める。
「はいっ!」
まふゆはリリアと顔を見合わせ、力強く返事をした。
自分たちの役割の重要性を再認識し、新たな学問への意欲が静かに湧き上がってくるのを感じる。
……こうして、和やかな雰囲気の中にも、支援職としての誇りを胸に、治癒科の授業が始まったのだった。




