12-4
ミカゲがまふゆを連れて人混みの中へ消えていく。そのあっという間の出来事に、残された四人は呆然とその場に立ち尽くしていた。
「……なんなのよ、アイツ」
最初に沈黙を破ったのは、シャノンだった。彼女はぷりぷりと怒った様子で腰に手を当て、二人が消えた方向を睨みつけている。
「二人だけで抜け駆けなんて、ずるいじゃないの」
「全くだ。ミカゲの奴、後で覚えてろよ……」
レオンハルトも、面白くなさそうに腕を組んで唸る。大切なまふゆを、まるで攫うように連れて行かれたのだ。嫉妬と心配で、落ち着かない気持ちが胸の中で渦巻いている。
「まあまあ、二人とも。ミカゲのことだ、何か考えがあるんだろう」
セリウスが穏やかに二人をなだめるが、その表情はどこか寂しげだ。自分も、まふゆと二人きりの時間が欲しかった、という本音が隠せない。
そんな三人の様子を、リリアは少し離れた場所から見ていた。
彼女の手の中には、先ほど買った緑色の星のチャームが握られている。
(まふゆんは、ミカゲっちと……)
レオンハルト、セリウス、ミカゲ。三人の王子様に想いを寄せられるまふゆ。
それに比べて、自分は……。
リリアは、レオンハルトの横顔を盗み見た。彼の視線は、ずっとまふゆたちが消えた先を追っている。その瞳に自分が映ることはない。
胸が、ちくりと痛んだ。
(このままじゃ、ダメ……!)
昨夜、白檻会のことを知り、みんなで一緒に戦おうと誓った。怖くても、自分にできることをすると決めたのだ。
それは、戦いのことだけじゃない。恋だって、そうだ。
このまま何もせず、修学旅行が終わってしまうのは嫌だ。
リリアは、きゅっと唇を結んだ。
震える足に、勇気を込めて力を入れる。ミカゲができたのなら、自分にだって。
「……あの、レオンハルト様!」
リリアは、意を決して声を張り上げた。
その声に、レオンハルトは驚いて振り返る。
「ん? どうした、リリア」
「あ、あの……!その……!」
いざ本人を前にすると、心臓が早鐘のように打ち、言葉がうまく出てこない。
「……少しだけ、二人で、お話、したい」
蚊の鳴くような声で、それでも何とかそれだけを伝えるのが精一杯だった。
「二人で……?」
レオンハルトは、リリアの思い詰めたような表情に、きょとんとする。隣ではセリウスとシャノンも、意外そうな顔で二人を見ていた。
「だ、ダメ……?ほんの少しだけでいいから!あーし、レオンハルト様に、どうしても伝えたいことが……」
リリアは必死だった。断られたらどうしよう、という不安で涙が滲みそうになる。
彼女の切羽詰まった様子に、レオンハルトは何かを察した。
「……わかった。いいぞ」
「……!ほんとー!?」
ぱあっと顔を輝かせるリリアに、レオンハルトは「ああ」と頷き、セリウスとシャノンに向き直った。
「すまない、少しだけ席を外す。集合場所には必ず戻るから、先に行っていてくれ」
「……わかったわよ。こっちも抜け駆けとはね」
シャノンは呆れたように肩をすくめたが、その目はリリアの背中を押すように優しかった。
「兄さん、あまり無茶はしないようにね」
セリウスも、何かを察したのか、静かに頷いた。
「ありがとう、セリウス様、シャノちゃん……!」
リリアは二人にぺこりと頭を下げると、レオンハルトの服の袖を、おずおずと掴んだ。
「さあ、行こ!レオンハルト様!」
リリアは、先ほどのミカゲのように、少しだけ強引にレオンハルトを引っぱって歩き出す。
ミカゲとまふゆが消えたのとは、また別の方向へ。




