12-1
そして、あっという間に修学旅行最終日の朝がやってきた。
シルヴァニアの柔らかな日差しが、ホテルのロビーラウンジに明るく差し込んでいる。昨夜の激闘と重い真実の共有が嘘だったかのように、穏やかな時間が流れていた。
朝食を終え、出発の時間までロビーで待機していた六人の間には、昨日までの刺々しい空気はもうない。
もちろん、根本的な問題が解決したわけではないが、共に巨大な敵に立ち向かうという共通の目的が、彼らの心を一つに結びつけていた。
「昨日は結局、ルームサービスになっちゃったけど、ここの朝食は美味しかったわね」
シャノンが満足そうに言い、セリウスも同意するように頷く。
「ああ。特に焼きたてのパンは絶品だったね」
「わかるー!あーし、三回もおかわりしちゃった!」
リリアが明るく言うと、レオンハルトが呆れたように笑った。
「お前、昨日の昼は食欲ないとか言ってなかったか?」
「それはそれ、これはこれ、だしー!」
ぷく、と頬を膨らませるリリアの様子に、皆から笑いがこぼれる。まふゆも、心から楽しそうに笑っていた。
この穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに、と願わずにはいられない。
ふと、リリアが何かを思いついたように、まふゆの顔をじっと見つめた。
「ねぇ、まふゆん」
「ん? なんやろ、リリアさん」
「あーし、ずっと思ってたんだけどー……」
リリアは少しだけ口を尖らせて、レオンハルト、セリウス、そしてまふゆの隣に立つミカゲを順番に指差した。
「レオンハルト様と、セリウス様と、ミカゲっちは呼び捨てなのに、あーしたちのことは『さん』付けなの、ずるくない?」
「えっ?」
リリアの唐突な指摘に、まふゆはきょとんとする。
言われてみれば、確かにそうだ。告白されたことをきっかけに、三人のことは呼び捨てにするようになったが、シャノンとリリアのことは、今まで通り「さん」付けで呼んでいた。
リリアの言葉に、隣にいたシャノンも腕を組んで、ふん、と鼻を鳴らした。
「……そうよ。今さら気づいたけど、なんであたしたちだけ仲間外れみたいになってんのよ」
「な、仲間外れって……そんなつもりは……!」
「じゃあ、あんたはあたしたちのこと、まだ信用してないってこと?」
シャノンの金色の瞳が、じっとまふゆを射抜く。それは意地悪な響きではなく、もっと距離を縮めたいという、彼女なりの不器用なアプローチだった。
「ち、違う!そんなことない!シャノンさんもリリアさんも、うちの大切な……!」
慌てて弁解するまふゆの言葉を、シャノンは遮った。
「だったら、呼びなさいよ」
「へ……?」
「あたしのことも、リリアのことも、呼び捨てで。……仲間なんでしょ?」
シャノンは少しだけ顔を赤らめ、そっぽを向いてしまう。猫の耳が、照れくさそうにぴこぴこと動いていた。
「シャノちゃんの言う通りだよ、まふゆん!あーしも、呼び捨てにしてほしいなー」
リリアも、にこにこと期待に満ちた笑顔を向けてくる。
「シャノンさん……リリアさん……」
二人の真っ直ぐな想いが、じんわりと胸に広がる。
レオンハルトとセリウスも、面白そうに、そして温かい目で見守っている。ミカゲは相変わらず無表情だが、その瞳はどこか柔らかい。
(うち……こんなに素敵な仲間に囲まれて……ほんまに、幸せや)
まふゆは込み上げてくる嬉しさに、少しだけ瞳を潤ませながら、意を決して深呼吸した。
そして、はにかみながら、二人の名前を呼ぶ。
「……シャノン。……リリア」
「「!!」」
呼び捨てにされた二人は、一瞬目を見開いて、それからぱあっと顔を輝かせた。
「……ん」
シャノンはぶっきらぼうに返事をしたが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。
「えへへー!なんか、すっごく嬉しいかも!」
リリアは、満面の笑みでまふゆに抱きついた。
こうして、六人の間の最後の壁が、また一つ取り払われた。
白檻会という巨大な闇を前に、彼らの絆は、修学旅行という特別な時間の中で、より一層強く、固く結ばれていく。




