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「どうして、話してくれなかったのよ!」
シャノンが、叫ぶように言った。その金色の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「水臭いじゃない!あたしたち、仲間じゃないの!?あんたたちだけで、そんな重いもん抱え込んで……!」
「……話したところで、どうなる」
ミカゲが、静かに口を開いた。
「魔導機がなければ、学園のシステムは成り立たない。もはや誰が敵なのか分からない以上、この事実が公になれば、アルビノエルフであるまふゆがより危険な立場に置かれるだけだ」
そのあまりに合理的で、冷徹な分析に、誰も反論できなかった。
事実、ミカゲの言う通りだった。これは、個人の力だけでどうにかなる問題ではない。学園、ひいては国全体を揺るがしかねない、巨大な闇だ。
「だからって……!」
それでも食い下がるシャノンを、セリウスがそっと肩を抱いて制した。
「シャノン、気持ちはわかる。でも、ミカゲの言うことも……一理あるんだ」
セリウスの声は重く、苦渋に満ちていた。魔導機の真実を知った今、王族である彼もまた、事の重大さを痛感している。軽々しく動けば、国と国の関係にまで影響を及ぼしかねない。
東屋に、再びやりきれない沈黙が落ちる。
夕暮れの光が、それぞれの顔に深い影を落としていた。
「……もう一つ、共有しておくべき情報がある」
静寂を破ったのは、ミカゲだった。
彼は、今まで伏せていた最後の一枚のカードを切るように、静かに、しかしはっきりと告げた。
「この学園の教師……エドウィン・ヴォルクシュタインは、白檻会の中枢メンバーだ」
「────な……!?」
その名前に、レオンハルト、セリウス、シャノン、そしてリリアの全員が、息を飲む音がした。
魔導機の真実以上に、その事実は彼らにとって衝撃的だった。
いつも穏やかで、博識で、生徒たちからも信頼の厚い、あの教師が?
「嘘でしょ……?エドウィン先生が……?」
リリアが、信じられない、と震える声で呟く。
「イースターの時、まふゆを襲ったのは奴だ。俺は、この目で見た」
その言葉には、疑う余地のない重みがあった。
イースターの襲撃、紫色の魔物事件、ゴーレムの暴走……今までバラバラだった事件のピースが、エドウィンという存在によって、一つの邪悪な絵へと繋がり始める。
「じゃあ……僕が、まふゆに手を上げそうになったあの時も……」
セリウスが、青ざめた顔で呟いた。感情を増幅させる装置を使った、あの授業。あれも全て、エドウィンの仕組んだことだったのだ。
自分は、彼の掌の上で踊らされていたに過ぎない。その事実に、セリウスは己への嫌悪と怒りで唇を強く噛みしめた。
「なんてことだ……。俺たちは、敵の懐で……!」
レオンハルトは、拳を強く握りしめる。守るべき仲間たちが、最も安全であるはずの学園内で、常に危険に晒されていた。
その事実に、リーダーとしての無力感と、激しい怒りがこみ上げてくる。
「……ごめんなさい」
まふゆは、俯いたまま小さな声で謝った。
「うちが……うちがアルビノエルフやから……みんなを、巻き込んでしもて……」
自分の存在が、大切な仲間たちを危険に晒している。その罪悪感に、胸が張り裂けそうだった。
「違う!」
まふゆの肩を、力強い手が掴んだ。
顔を上げると、レオンハルトが真剣な、そして怒りを宿した瞳でまふゆを見つめていた。
「お前は何も悪くない!悪いのは、お前を利用しようとする奴らだ!お前を傷つける奴らだ!」
その言葉は、まふゆだけでなく、そこにいる全員の心に響いた。
そうだ、まふゆは何も悪くない。彼女の優しさや、その特別な力を、自分たちの欲望のために利用しようとする者たちが、全て悪いのだ。
「レオンハルトの言う通りよ」
シャノンが、涙を拭ってきっぱりと言った。
「あんたが謝ることじゃない。……ごめん、あたしも、取り乱したわ」
「セリウス様も、自分を責めないで。あれは、先生が……ううん、エドウィンが悪いんだから……!」
リリアも、仲間を想う強い光を瞳に宿して言う。
仲間たちの温かい言葉に、まふゆの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
それは、恐怖や罪悪感の涙ではない。仲間たちの優しさが、固く凍りついていた心を溶かしてくれた、温かい涙だった。
「……ありがとう……みんな……」
ミカゲが、泣きじゃくるまふゆの頭を、そっと撫でる。
その不器用な優しさに、まふゆはさらに涙が溢れた。




