11-6
賑やかな大通りを抜け、六人は徐々に人通りの少ない裏路地へと足を踏み入れていく。
石畳の道は変わらないが、建物の壁には蔦が絡まり、どこか寂れた雰囲気が漂い始めていた。
先頭を歩くミカゲは、周囲への警戒を怠らない。そのすぐ後ろを、フルーツ串を少しずつかじりながらまふゆが続く。
さらにその後ろを、シャノンとリリア、そしてレオンハルトとセリウスが、それぞれ複雑な表情で歩いていた。
「……なあ、ミカゲ」
レオンハルトが、低い声で呼びかけた。
「なんで、わざわざあんな場所を選んだんだ。言い伝えに興味があるなんて、お前らしくもない」
その問いには、棘が含まれている。ガラス工房での一件で、レオンハルトのミカゲに対する不信感は頂点に達していた。
「……あんたには関係ない」
ミカゲは振り返らずに答える。
「関係なくはないだろう!俺たちはパーティだ。お前の独断で皆を危険な場所に連れて行くことは許さん」
「危険?この程度で危険を感じるなら、Eランクのバッジは飾りか?」
「そういうことじゃない!」
再び一触即発の空気が流れる。まふゆは、食べ終えた串を握りしめ、どうしようと二人の間でおろおろするばかりだ。
「まあまあ、兄さん。ミカゲも、何か考えがあるんだろう」
セリウスが、なだめるように割って入る。
「う、うん……喧嘩は、やめよ?」
リリアもか細い声で同調するが、その視線は不安げにレオンハルトに向けられている。
「……チッ」
レオンハルトは舌打ちを一つすると、それ以上は何も言わなかった。
しかし、六人の間に流れる不協和音は、静かな路地に嫌な形で響き渡る。
やがて、一行はひらけた場所に出た。
古い石で組まれた小さな泉が、木漏れ日の中で静かに水を湛えている。
周囲には色とりどりの野花が咲き乱れ、まるで時が止まったかのような、幻想的な空間だった。ここが『嘆きの泉』らしい。
「わぁ……綺麗……」
まふゆは、思わず感嘆の声を漏らした。泉の水は信じられないほど透き通り、底の白い砂までくっきりと見える。
その美しさに、さっきまでの気まずさが少しだけ和らぐ気がした。
「本当に、妖精の涙みたいね……」
シャノンも、珍しく素直な感想を口にする。
ミカゲは泉に近づくと、懐から一枚のコインを取り出した。
そして、まふゆに向き直る。
「……あんたが投げろ」
「え? うちが?」
「純粋な願いが叶うんだろう。あんた以上に純粋な奴はいない」
「そ、そんなこと……」
照れて俯くまふゆの手に、ミカゲはコインを握らせた。ひんやりとした金属の感触が、彼の体温と共に伝わってくる。
「何を願うんだ、まふゆ」
セリウスが、柔らかい笑みを浮かべて尋ねた。
「え、ええと……」
まふゆは困ってしまう。自分の個人的な願い事をしていいものだろうか。
(みんなが、仲良くいられますように……)
心の中でそう呟き、泉に向かってコインを投げようとした、その時だった。
「──見つけたぞ、アルビノ」
背後の路地の暗がりから、下卑た笑い声と共に複数の人影が現れた。
屈強な体つきの男たちが、品定めをするような汚らわしい視線をまふゆに向けている。その手には、剣や棍棒が握られていた。
「なっ……!?」
レオンハルトが即座に剣の柄に手をかける。
「お前たち、何者だ!」
「へっ、王子様のお成りかよ。だが、今日はてめぇらに用はねえ。そこの白髪の嬢ちゃんを、渡してもらおうか」
男たちの一人が、下品な舌なめずりをした。
ただのチンピラではない。その目には、明確な目的と悪意が宿っている。
「……白檻会か」
ミカゲが、吐き捨てるように呟いた。
その言葉に、まふゆの背筋が凍りつく。忘れようとしても忘れられない、あの絶望的な記憶が蘇る。
「ミカゲ、どういうことだ!?」
「説明は後だ。……来るぞ!」
ミカゲの警告と同時に、男たちが一斉に襲い掛かってきた。
楽しいはずだった修学旅行は、最悪の形で中断される。
静かな泉のほとりで、シルヴァニアの光と影が交錯する、激しい戦いの火蓋が切って落とされた。




