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「ふ、ふふ……ちょっと形変になってしもたけど、これはこれでかわええな?」
完成したばかりでまだほんのり温かいグラスを、まふゆは両手でそっと持ち上げる。
吹き竿から切り離されたそれは、完璧な円柱とは言えず、少しだけ首を傾げたように歪んでいた。けれど、光を透かすと不規則にきらきらと輝いて、世界に一つだけの特別なものに見える。
まふゆの楽しそうな声に、それまで黙って作業を見ていたミカゲが、ふ、と息だけで笑った。
「……あんたが作ったんだ。可愛くないはずがない」
その声は、いつもよりずっと穏やかで、優しさに満ちていた。
まふゆは驚いてミカゲを見上げる。彼の黒い瞳が、慈しむように自分と、そして自分の手の中にあるグラスに向けられていることに気づき、胸の奥がきゅう、と甘く痛んだ。
「ミカゲと一緒やったから、作れたんよ。ありがとう」
素直な感謝の言葉を口にすると、ミカゲは少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「……別に」
短く呟く彼の耳が、ほんの少しだけ赤く染まっているのを、まふゆは見逃さなかった。
(ミカゲ……)
彼が示してくれる、独占欲の裏にある不器用で真っ直ぐな優しさ。
それに触れるたび、心が揺さぶられる。
他の生徒たちの喧騒も、遠くでこちらを窺っているレオンハルトやセリウスの視線も、今はもう気にならなかった。
ただ、隣にいるミカゲの存在だけが、まふゆの世界のすべてだった。
「このグラス、どないしよかな……。お花とか飾ったら、綺麗やろか」
「……あんたが使えばいい」
「え?」
「あんたが、毎日使え」
ミカゲはまふゆの手からそっとグラスを受け取ると、それをじっと見つめた。
「……俺が、あんたのために作ったものだ」
それは命令のようでもあり、懇願のようでもあった。
このグラスを見るたびに、自分を思い出してほしい。そんな声なきメッセージが、彼の瞳から伝わってくる。
「……うん。わかった。大切にする」
まふゆがこくりと頷くと、ミカゲは満足そうに口元を微かに綻ばせた。
それは本当に些細な変化だったけれど、まふゆにとっては、どんな綺麗な景色よりも心に残る、特別な笑顔に見えた。
ガラス細工の体験が終わり、工房から出る頃には、朝の気まずさは嘘のように薄れていた。
もちろん、レオンハルトとの間にはまだぎこちない空気が残っているし、リリアのことも気がかりだ。
でも、ミカゲと心を通わせることができたという事実が、まふゆの心を少しだけ軽くしてくれていた。
午後は、班に分かれての市内観光。
まふゆの班は、レオンハルト、セリウス、ミカゲ、シャノン、そしてリリア。いつもの六人だ。
複雑な想いが絡み合う、波乱含みの市内観光が、今、始まろうとしていた。




