11-1
修学旅行二日目の朝は、気まずい静けさと共に訪れた。
窓から差し込む柔らかな光が、部屋を明るく照らし出す。しかし、まふゆの心はどんよりと曇ったままだった。
昨夜、あれからほとんど眠れなかった。目を閉じれば、ミカゲの冷たい瞳が脳裏にちらつき、胸が締め付けられる。
レオンハルトとの事故のキスの感触も、まだ生々しく唇に残っているようで、落ち着かない。
「……おはよう」
「……おはよ」
先に起きていたシャノンと、小さな声で挨拶を交わす。
リリアもすでに起きていて、洗面所で身支度を整えていた。
「リリアさん、おはよう」
「……おはよ、まふゆん」
振り返ったリリアは、無理に作ったような笑顔を浮かべていた。
目の下には、うっすらと隈ができている。彼女もまた、よく眠れなかったのだろう。
その原因が自分にあるのかもしれないと思うと、まふゆは何も言えなくなってしまう。
三人分の重いため息が、部屋の空気をさらに重くした。
朝食会場であるホテルのレストランに行くと、すでに多くの生徒で賑わっていた。
レオンハルト、セリウス、そしてミカゲも、すでに席についているのが見える。
「お、おはよう」
「……おはよう」
まふゆとシャノンが挨拶をすると、セリウスはいつも通り穏やかに、しかしどこか心配そうな表情で「おはよう」と返してくれた。
レオンハルトも「ああ、おはよう」と応じるが、その視線はどこか泳いでいて、まふゆと目を合わせようとしない。
そして、ミカゲ。彼はまふゆを一瞥しただけで、すぐに視線を窓の外に移してしまった。その横顔は、昨夜の森で見た時と同じ、氷のような冷たさを湛えている。
(……やっぱり、怒ってるんや……)
ずきり、と胸が痛む。
朝食の味は、ほとんどしなかった。
朝食後、エドウィンから本日のスケジュールが発表された。
午前中はシルヴァニアの伝統工芸である「ガラス細工体験」、午後は班に分かれての市内観光だという。
「ガラス細工のペアは、リストを掲示しておくから、確認しておくように」
エドウィンの言葉の後リストを確認すると、まふゆの心臓がどきりと跳ねる。
(レオンハルトと、ペア……)
恐る恐るレオンハルトを見ると、彼もまた、気まずそうな顔でこちらを見ていた。
そして、その二人を、ミカゲが背後から無言で見つめている。
「……まふゆん、あーし、シャノちゃんと同じペアだー」
リリアが、力なく笑って言う。
「ん、さよか……」
まふゆも、何とか笑顔を返した。しかし、リリアの瞳は笑っていない。




