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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第十話 少女らは修学旅行へ-前編-
134/173

10-9




肝試しから戻ったまふゆの足取りは、鉛のように重かった。


ロビーで他のペアの帰りを待つ間も、心はここにあらず。楽しかったという感想を口にする他の生徒たちの声が、やけに遠くに聞こえる。


レオンハルトが隣で何かを話しかけてくれた気もするが、うまく返事ができたかどうか、自信がなかった。ミカゲは、結局ロビーには姿を現さなかった。




部屋に戻ると、ベッドの上でリリアが身じろぎするのが見えた。寝返りをうっただけらしく、静かな寝息が聞こえてくる。


その寝顔を見て、まふゆの胸にまた罪悪感が募った。


「……おかえり」


先に部屋に戻っていたシャノンが、ベッドに腰掛けたまま低い声で言った。その金色の瞳が、じっとまふゆを見つめている。


「ただいま……シャノン」

「……何があったのよ。あんた、幽霊でも見たみたいな顔してるわよ」

「え……?」

「レオンハルトと、何かあったんでしょ」


シャノンの真っ直ぐな視線に、まふゆはどきりとする。誤魔化すことはできそうになかった。


ぽつり、ぽつりと、肝試しでの出来事を話す。怖くてレオンハルトに抱きついてしまったこと。そして、その現場をミカゲに見られてしまったこと。


昼間の事故のキスについては、どうしても言葉にできなかった。




話を聞き終えたシャノンは、ふぅ、と大きなため息をついた。


「……あんたも、難儀なことになったわね」

「うぅ……ミカゲ、怒ってしもたやろか……」

「当たり前でしょ。あいつ、あんたのことしか見てないんだから」


きっぱりと言い切るシャノンの言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。


「でも、うち……どうしたらええのか、わからへん……。レオンハルトのことも、セリウスのことも……ミカゲのことも……みんな、大切な仲間やのに……」


膝を抱えて俯くまふゆの肩を、シャノンがぽん、と叩いた。


「……今は、何したって裏目に出るわよ。下手に動かない方がいい」

「でも……」

「ミカゲのことは、あたしからそれとなく話しといてあげる。あいつも、あんたに言われるよりは、少しは聞く耳持つでしょ」

「シャノン……!」


思わぬ言葉に顔を上げると、シャノンはふい、とそっぽを向いた。


「べ、別に、あんたのためじゃないわよ!あいつがあんなだと、こっちの調子も狂うからよ!」


照れているのか、猫の耳がぴこぴこと動いている。その不器用な優しさが、冷え切ったまふゆの心にじんわりと沁みた。


「……おおきに、シャノン」

「……別に。……それより、あんたも早く寝なさい。明日、目の下にクマ作ってたら笑うわよ」

「うん……」


シャノンに促され、まふゆも自分のベッドに潜り込む。

隣のベッドからは、相変わらずリリアの静かな寝息が聞こえていた。


(リリアさんも、何か悩んでるみたいやったし……うちは、自分のことばっかりや……)


目を閉じると、レオンハルトの熱い腕の感触、そしてミカゲの氷のような瞳がまぶたの裏に浮かんでくる。




楽しいはずの修学旅行。

それなのに、今はただ、胸の中にいくつもの棘が刺さったような痛みが広がるだけだった。


(明日になったら……少しは、ましになってるやろか……)


答えの出ない問いを繰り返しながら、まふゆは重いまぶたを閉じた。

シルヴァニアの美しい星空とは裏腹に、少女たちの心には、暗く複雑な夜の闇が静かに落ちていた。




第十話・了




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