10-6
夕食の時間は、豪華なビュッフェスタイルだった。
美味しい料理が並び、周りからは楽しそうな声が聞こえてくる。しかし、まふゆの心は晴れなかった。
昼間のレオンハルトとの事故が、ずっと頭から離れない。ちらりとレオンハルトを見ると、彼もどこか落ち着かない様子で、目が合うと気まずそうに逸らされてしまう。
そして、もう一つ気になることがあった。
自由時間から戻ってきてから、リリアの元気が少しないのだ。
「リリアさん、どないしたん?あんまり食欲、ないみたいやけど……」
「え?あ、ううん、なんでもないよー!ちょっと昼間にはしゃぎすぎちゃったかなーって」
リリアはいつものように笑顔を作るが、その笑顔はどこかぎこちなく、まふゆの目を見てくれない。
シャノンもその様子に気づいているのか、心配そうにリリアを窺っている。
結局、そのぎこちない空気は夕食が終わるまで続いた。
そして、夜。
楽しみにしていた温泉の時間になっても、まふゆの心はもやもやとしたままだった。
「うわぁ……!すごい!露天風呂や……!」
湯気の向こうに広がっていたのは、満点の星空の下、岩で組まれた風情のある露天風呂だった。
昼間の喧騒が嘘のように静かで、心地よいお湯の音だけが響いている。
まふゆはシャノンと二人、そっと肩までお湯に浸かった。
「はぁ……気持ちええ……」
「ん……最高ね」
旅の疲れがじんわりと解けていくのを感じる。
しかし、リリアは洗い場で体を洗った後も、なかなか湯船に入ってこようとしなかった。
「リリアさん?こっち入らへんの?」
「あ、うん……。あーし、ちょっとのぼせやすいから、先に体冷やしてから入るねー」
そう言って、リリアは少し離れた場所にある岩に腰掛け、空を見上げている。
その横顔は、どこか寂しげに見えた。
「……ねえ、まふゆ」
シャノンが小声で話しかけてくる。
「リリアのやつ、やっぱりおかしいわよね。自由時間から戻ってきてから、ずっとあんな感じ」
「うん……うち、何か悪いことでもしてしもたんかな……」
「さあ……。でも、あんたのせいじゃないと思うけど」
シャノンの言葉に少しだけ救われるが、やはり気になってしまう。
まふゆは意を決して、湯船から上がった。
「リリアさん」
濡れた体でリリアの隣に座ると、リリアはびくりと肩を震わせた。
「ま、まふゆん……。どうしたの?湯冷めしちゃうよ?」
「リリアさんこそ。……うち、何かしたかな?リリアさんを怒らせるようなこと……。もしそうやったら、謝るから、教えてほしい」
まっすぐにリリアの瞳を見つめて言うと、リリアは俯いてしまった。
「……ううん、まふゆんは、何も悪くないよ。全然」
「でも……」
「ほんと、ほんとだから!……ただ、ちょっと……色々考えちゃって……。ごめんね、心配かけちゃって」
そう言って笑うリリアの瞳は、潤んでいるように見えた。
これ以上、何を言えばいいのか分からない。
まふゆが戸惑っていると、リリアは「あーし、ちょっと先に上がるね!」と立ち上がって、足早に脱衣所へと向かってしまった。
残されたまふゆは、呆然とその後ろ姿を見送ることしかできない。
星空の下、温泉の湯気だけが、静かに立ち上っていた。




