10-2
そして、待ちに待った修学旅行当日。
抜けるような青空の下、王立特異能力者統合学園の正門前は、これから始まる旅への期待に満ちた新入生たちの熱気で溢れかえっていた。
「うわぁ……!みんな、すごい荷物やねぇ」
まふゆは自分の少し大きめな旅行鞄を抱え直し、周りを見渡して感嘆の声を上げた。
様々な種族の生徒たちが、それぞれの種族の特色が現れた大きな荷物や小さな荷物を持って、友達とのおしゃべりに花を咲かせている。
「まふゆん、おはよーっ!こっちこっち!」
遠くからリリアが元気いっぱいに手を振っている。その隣には、腕を組んで少し気だるげに立つシャノンの姿もあった。
「リリアさん、シャノンさん、おはよう」
「ん。……あんた、荷物それだけ?意外と少ないのね」
「う、うん。これでも頑張って詰めてきたんやけど……」
シャノンの言葉に、まふゆは自分の鞄を見下ろす。三日分の着替えと、もしもの時のための救急セット、あとは少しのお菓子。
これ以上何が必要なのか、いまいちピンとこなかった。
「まふゆは荷物が少なすぎるんだよな。まぁ、何かあったら俺のを使えばいい」
「そういうこと。僕のも使ってくれて構わないから」
背後から聞こえてきた声に、まふゆの肩がぴくりと跳ねる。
振り返ると、そこにはレオンハルトとセリウスが、やはり大きな荷物を持って立っていた。
「れ、レオンハルト、セリウス!おはよう……」
「ああ、おはよう。いい天気でよかったな」
レオンハルトは快活に笑い、セリウスも穏やかに微笑む。
だが、二人の視線が自分に注がれているのを感じると、まふゆはどうしても数日前の告白を思い出してしまい、顔が熱くなる。
「……遅い」
ふいに、すぐそばから低い声がした。いつの間にか隣に立っていたミカゲが、呆れたようにまふゆたちを見ている。
彼の荷物は、他の誰よりもコンパクトな黒いバックパック一つだけだった。
「ミカゲ、おはよう。ご、ごめん、待たせてしもた?」
「別に。……あんた、ちゃんと眠れたのか」
「えっ!?」
ミカゲの黒曜石色の瞳が、じっとまふゆの顔を覗き込む。その視線に、寝不足を見透かされたようで、まふゆはどきりとした。
「だ、大丈夫やで!ばっちり寝たから!」
慌ててそう答えるが、その声は少しだけ上ずってしまった。
そんな気まずい空気を破ったのは、教師陣の声だった。
「はーい、みんな静かにー!これから、次元転移門を通ってシルヴァニアへ移動しまーす!クラスごとに整列してくださーい!」
ローゼリアの色っぽい声が響き渡り、生徒たちは一斉に動き始める。
「次元転移門……?」
「ああ。長距離を移動するための、大規模な魔術ゲートだ。学園側からの一方通行だが、一瞬で目的地に着くぞ」
レオンハルトが説明してくれる。その便利さに、まふゆは目を丸くした。
やがてA組の順番が回ってくる。
巨大な石造りのゲートが青白い光を湛え、その向こう側には、見たことのない街並みが揺らめいて見えた。
「すごい……」
「さあ、行くぞ」
ミカゲに背中を軽く押され、まふゆは一歩、光の中へと足を踏み入れた。
……ふわりとした浮遊感に包まれたかと思うと、次の瞬間、まふゆの目の前には全く新しい景色が広がっていた。
「ここが……シルヴァニア……」
石畳の広場、美しい装飾が施された建物、そして行き交う人々の活気。学園都市とはまた違う、温かみのある空気が肌を撫でる。
胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込むと、旅の始まりを告げる鐘の音が、街中に朗々と響き渡った。
告白の返事という大きな悩みを抱えながらも、まふゆの心は、これから始まる三日間の出来事への期待で、きらきらと輝き始めていた。




