9-13
三人の男から一斉に告白を受け、頭が真っ白になっているまふゆ。
……その時、レオンハルトがふと気づいたように眉を寄せた。
「……待て。まふゆ、今ミカゲのことを呼び捨てにしたか?」
その指摘に、セリウスもはっと顔を上げる。
「……そうだね。呼び捨てにしてた」
二人の視線が、一斉にミカゲへと向けられる。
ミカゲは、いつもの無表情のまま、静かに頷いた。
「ああ。俺がまふゆに頼んだ」
「頼んだ……だと?」
レオンハルトの眉間に、険しい皺が寄る。セリウスも、明らかに不満そうな顔をしていた。
「どういうことだ、ミカゲ。お前だけ、呼び捨てにされてるなんて……」
「ずるいぞ、ミカゲ。僕たちには『さん』付けなのに」
二人の抗議に、ミカゲは何も答えない。ただ、わずかに口元が緩んだような気がした。それは、彼なりの満足げな表情だった。
「……っ、あ、あの時、咄嗟に……!」
まふゆが慌てて弁明しようとするが、言葉が上手く出てこない。
確かに、昇級試験でミカゲが倒れた時、そして昨夜医務室で彼に頼まれた時、自分は彼のことを呼び捨てにした。それが今では、当たり前になっていた。
「まふゆ」
レオンハルトが、まふゆの肩をぐっと掴んだ。その顔は、真剣そのものだ。
「俺も、呼び捨てにしてくれ」
「え、えぇっ!?」
まふゆの顔が、再び真っ赤に染まる。
レオンハルトは、まっすぐにまふゆを見つめた。
「ミカゲだけずるいだろう。俺も、お前の口から俺の名前を聞きたい。『レオンハルト』って、呼んでくれ」
その真剣な眼差しに、まふゆは言葉を失う。
「ぼ、僕もだ!」
セリウスも、まふゆの手を取った。
「僕も、君に呼び捨てにしてほしい。『セリウス』って、呼んでくれないか」
その懇願するような視線に、まふゆは完全にパニックになった。
「ちょ、ちょっと待って!!」
まふゆは真っ赤な顔で両手を振り回す。
「い、いきなりそんなこと言われても……!恥ずかしいし……!」
「恥ずかしいのは、俺たちも同じだ」
レオンハルトは苦笑しながら、まふゆの頭をぽんぽんと撫でた。
「でも、ミカゲだけ特別扱いってのは、納得できない。俺も、お前にとって特別な存在になりたい」
その言葉に、セリウスも強く頷く。
「僕も、だ。君にとって、ミカゲと同じくらい……いや、それ以上に大切な存在になりたい」
二人の真剣な眼差しに、まふゆはもう何も言えなくなった。
顔は真っ赤で、心臓は早鐘を打ち、頭の中は真っ白だった。
「……ど、どないしよ……」
まふゆは涙目になりながら、助けを求めるようにミカゲを見上げる。
しかし、ミカゲは壁に寄りかかったまま、わずかに不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「……好きにしろ」
そっけない一言。
助けを求めたまふゆにとっては、何の救いにもならない言葉だった。
「み、ミカゲ……!」
「ただし」
ミカゲは、レオンハルトとセリウスを鋭く睨みつけた。
「俺が一番最初に呼び捨てにされたという事実は、変わらない」
その言葉には、明らかな優越感が込められていた。レオンハルトとセリウスの眉間に、険しい皺が寄る。
「……くっ」
「それは、認めるしかないな……」
二人は悔しそうに唇を噛みしめた。確かに、ミカゲが最初だ。その事実は、どうあがいても覆せない。
「じゃ、じゃあ……!」
まふゆは真っ赤な顔のまま、意を決したように二人を見上げた。
「れ……レオン、ハルト……」
か細い声で、レオンハルトの名前を呼ぶ。
その瞬間、レオンハルトの顔がぱあっと明るくなった。
「おお……!」
まるで子供のように、嬉しそうな表情を浮かべる。
そして、まふゆはセリウスの方を向いた。
「せ……セリウス……」
同じように、震える声で彼の名前を呼ぶ。
セリウスもまた、顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう、まふゆ」
こうして三人とまふゆの距離は、また近づいたのであった。




