9-10
セリウスは、まふゆの優しい笑顔を見つめながら、心の中でひとつの決意を固めていた。
(……そうだ。僕は、ずっと自分の気持ちを押し殺してきた)
まふゆへの恋心。
それは、彼女が学園に来た日から、静かに、しかし確かに育ち続けていた感情だ。
けれど、彼はそれを表に出すことを恐れていた。レオンハルトやミカゲとの関係を壊したくない、まふゆを困らせたくない、そんな言い訳で自分の気持ちに蓋をし続けてきた。
(……その結果が、あの暴走だ)
押さえつけていた感情は、魔導機によって増幅され、嫉妬という醜い形で噴出した。
もし、最初から素直に気持ちを伝えていれば。
もし、自分の心に正直になっていれば。
あんなことにはならなかったかもしれない。
(……なら、答えは決まっている)
セリウスは、まふゆの菫色の瞳をまっすぐに見つめた。
彼の心は、もう決まっていた。
「まふゆ」
「……ん?」
まふゆが小首を傾げる。
その仕草がまた、彼の心を揺さぶる。
「僕は……君に、伝えたいことがある」
その声は、静かだが、はっきりとした意志を帯びていた。
レオンハルトとミカゲの視線が、一斉にセリウスへと向けられる。二人とも、彼が何を言おうとしているのか、予感していた。
「……僕は、君が好きだ」
セリウスの告白は、夕暮れの教室に静かに響いた。
まふゆの目が、驚きに見開かれる。レオンハルトは息を呑み、ミカゲの無表情がわずかに硬くなる。
「……っ、え……?」
まふゆの頬が、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
「最初は、ただ仲間として、友として好きなのだと思っていた。でも違った。僕は、君のことを、一人の女性として愛している」
セリウスは、自分の胸に手を当てた。
「今まで、この気持ちを押し殺していた。兄さんや、ミカゲとの関係を壊したくなかったから。君を困らせたくなかったから。でも……それが間違いだった」
彼は、ぎゅっと拳を握りしめる。
「感情に蓋をし続けた結果、僕は暴走した。君を傷つけようとした。だから、もう隠すのはやめる。僕は君が好きだ。この気持ちは、本物だ」
その真剣な眼差しに、まふゆは言葉を失った。
顔は真っ赤で、視線は泳ぎ、口をぱくぱくと開け閉めするだけで、何も言葉が出てこない。
「……返事は、今すぐでなくていい。僕はまだ、君に釣り合う男じゃない。でも、いつか必ず、君の隣に立てるくらい強くなる。だから……僕に、チャンスをくれないか」
セリウスは、まふゆの手をそっと取った。
その手は、温かくて、小さくて、震えていた。
「僕は、君を守りたい。君を笑顔にしたい。君の隣で、ずっと支えていたい。……それが、僕の本当の気持ちだ」
告白を終えたセリウスは、静かにまふゆの手を離した。
彼の顔には、もう迷いはなかった。ただ、まっすぐな決意だけがあった。




