9-4
夜。
医務室の窓からは、月の光が静かに差し込んでいた。
二つのベッドには、まふゆとミカゲが並んで眠っている。
イリヤは夕方の見回りを終えた後、一度自室へと戻っていた。
静寂に包まれた部屋には、二人の穏やかな寝息だけが響いている。
──その時だった。
ミカゲのまつ毛が、わずかに震えた。
彼の指先がぴくりと動き、やがてゆっくりと瞼が持ち上がる。視界には、見慣れた医務室の天井が映り込んだ。
「……ここは……」
掠れた声で呟きながら、ミカゲは自分の置かれている状況を理解しようとする。身体は重く、動かすだけで痛みが走るが、意識ははっきりとしていた。
そして、すぐに記憶が蘇る。
セリウスが暴走し、まふゆに短剣を向けた。その光景を見た瞬間、身体は勝手に動いていた。まふゆを守るために、無理やり身体を起こして……その後の記憶は、途切れている。
(……まふゆは、無事か)
ミカゲはゆっくりと顔を横に向けた。
すぐ隣のベッドで、まふゆが静かに眠っている。
白い髪が月明かりに照らされて、銀色に輝いている。その顔は安らかで、怪我をしている様子はない。ただ、まだ目を覚ましていない。
「……よかった」
ミカゲは小さく息を吐き、わずかに表情を緩めた。
彼女を守れた。それだけで、今は十分だった。
ベッドから起き上がろうとして、身体に激痛が走る。しかし、それを無視するようにして、ミカゲはゆっくりと身体を起こした。
足元はまだおぼつかないが、何とか立ち上がることができる。
ふらつく足取りで、まふゆのベッドのそばまで歩み寄る。
そして、彼女の白い髪に、そっと手を伸ばした。
「……また泣いたのか」
頬に残る涙の跡を、指でそっとなぞる。
きっと、自分のせいだと、また責めたのだろう。いつもそうだ。この少女は、何もかも自分のせいだと抱え込んでしまう。
「……俺は、あんたを守りたかっただけだ。あんたのせいじゃない」
誰にも聞こえない、小さな声で呟く。
ミカゲは、まふゆの頬にそっと手を添えた。冷たい自分の手のひらと、彼女の温かい頬の対比が、妙に心地よかった。
窓の外では、夜風が木々を揺らしている。
静かな夜の医務室で、ミカゲはただ、眠るまふゆの顔を見つめ続けていた。




