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その日の午後は、A組とB組の合同授業だった。
科目は美術。担当はナルシスト気味なエルフの教師、アルフだ。
彼は教壇で、自らが描いたという「泉に映る麗しき我が姿」というタイトルの自画像を掲げ、その完璧な構図といかに光の使い方が素晴らしいかを熱弁している。
しかし、A組の席は、まるで歯が抜け落ちたように空席が目立っていた。
まふゆ、セリウス、ミカゲ、そしてシャノンの席は主がおらず、がらんとしている。
「ねぇねぇ、レオンハルト様……」
隣の席から、遠慮がちに声をかけられた。B組のリリアだ。
彼女は心配そうな顔で、レオンハルトの様子を窺っている。
「まふゆんたち、どうしたの?昨日からずっといないみたいだけどー……」
「……ああ、リリアか」
レオンハルトは、ぼんやりと虚空を見つめていた視線を、ゆっくりとリリアに向けた。
その青緑の瞳にはいつもの覇気はなく、ひどく疲れた色が浮かんでいる。
「少し、体調を崩していてな。全員、医務室で休んでる」
「えぇっ!?全員!?だ、大丈夫なの……?」
リリアは驚きに声を上げたが、レオンハルトはそれ以上を語ろうとはしなかった。ただ、「大丈夫だ」と短く返すだけ。
その上の空な様子は、誰の目にも明らかだった。
(……なんか、レオンハルト様、すごく疲れてる……)
リリアは、この前魔物に襲われた自分を颯爽と助けてくれた、あの力強い王子の姿を思い出す。今の彼は、まるで別人のように憔悴しきっていた。
仲間が四人も倒れているのだから、無理もないだろう。
何か気の利いた言葉をかけたい。少しでも彼の力になりたい。でも、なんて言えばいいのか分からなかった。
「……あのっ、レオンハルト様!」
「ん……?」
「もし、あーしに何かできることがあったら、遠慮なく言って!薬とか……いるものがあったら、すぐに用意するから!」
リリアは、自分にできる精一杯の申し出をした。
その言葉に、レオンハルトはわずかに目を見開く。そして、ふっと力なく笑った。
「……ありがとう、リリア。その気持ちだけで十分だ」
その笑顔は、いつもの豪快なものではなく、ひどく儚く見えた。
リリアは胸がちくりと痛むのを感じながらも、「はいっ!」と元気に返事をする。
(……早く、みんな元気になるといいな……)
リリアは心から願いながら、前を向いた。
レオンハルトは再び、窓の外へと視線を移す。彼の心は、この教室にはなく、仲間たちが眠る医務室にあった。
今はただ、彼らが目を覚ますことだけを、静かに待つことしかできない。
アルフの情熱的な美術談義も、今の彼の耳には全く届いていなかった。




