9-1
翌朝。
医務室には、朝の柔らかい光が静かに差し込んでいた。
「……ん……」
ベッドの上で、最初に身じろぎしたのはセリウスだった。
重いまぶたをゆっくりとこじ開けると、見慣れない白い天井がぼんやりと映る。
身体を起こそうとして、ずきり、と頭に鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめた。
(……僕は、確か……)
記憶を辿る。エドウィンの授業、魔導機、そして……黒い衝動。
嫉妬と焦燥感に心を喰われ、暴走した自分。まふゆに短剣を向け、兄であるレオンハルトにまで牙を剥いた。
その全てが、悪夢ではなく紛れもない現実として、鮮明に蘇ってくる。
「……っ!」
セリウスは自分のしでかしたことの重大さに、血の気が引くのを感じた。
(最低だ。僕は、なんてことを……。まふゆを、兄さんを、傷つけようとした……)
罪悪感に苛まれながら、セリウスはゆっくりと周囲を見渡した。
隣のベッドでは、ミカゲがまだ静かに眠っている。その顔色は昨日よりはいくらかましに見えるが、まだ健やかとは言い難い。
そして、そのミカゲのベッドの脇に置かれた簡易ベッドで、まふゆが小さな寝息を立てていた。
彼女もまた、深い眠りの中にいる。その頬には、乾いた涙の跡が痛々しく残っていた。
セリウスは、自分のベッドのそばで、椅子に座ったまま眠りこけているシャノンの姿に気づき、わずかに目を見開く。彼女の足元には、誰かがかけたであろう毛布が落ちていた。
「……ノセ」
そのシャノンが、もぞりと身じろぎをし、寝ぼけた声で呟いた。
「……起きたの、あんた」
目をこすりながら、まだ覚醒しきっていない様子のシャノンが、セリウスを見上げる。
その金色の瞳は少し赤く、腫れぼったい。
「シャノン……君、ずっとここに?」
「……別に。あんたが心配だったわけじゃないわよ。ただ……目が覚めた時に誰もいないんじゃ、寝覚めが悪いかと思っただけ」
憎まれ口を叩きながらも、その声には隠しきれない安堵が滲んでいた。
セリウスは、そんな彼女の不器用な優しさに、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じる。
だが、すぐにその温かさは罪悪感に塗り替えられた。
彼は、眠るまふゆに視線を移す。彼女をあんなに泣かせてしまった。恐怖を与えてしまった。
(僕は……彼女に、どんな顔をして会えばいいんだ……)
許されるはずがない。
セリウスは唇を強く噛みしめ、自分の浅はかさと心の弱さを、ただただ呪うしかなかった。
医務室の静寂が、今はまるで自分を責め立てる声のように、彼の耳に重く響いていた。




