8-11
どれくらい泣き続けていただろうか。
イリヤの胸の中でしゃくりあげていたまふゆの嗚咽が、やがて小さな寝息に変わる頃には、午後の授業の終わりを告げるベルが遠くで鳴っていた。
「……眠ってしまったわね」
イリヤは慈しむようにまふゆの白い髪を撫でると、彼女を支えながら空いているベッドへとゆっくりと横たわらせる。
よほど心労が溜まっていたのだろう、まふゆは一度も目を覚ますことなく、深く穏やかな眠りに落ちていった。
「……すまない、イリヤ先生」
レオンハルトが、静かに頭を下げた。まふゆを泣かせてしまったこと、そして何もできなかった自分への不甲斐なさが、その声に滲んでいた。
「いいえ。レオンハルトさん、貴方が謝ることではありません。今は……今はただ、彼らが安らかに眠れるように、静かに見守ってあげましょう」
イリヤはそう言うと、まふゆにそっと毛布をかけ、ミカゲとセリウスの様子をもう一度確認する。二人とも容体は安定しているようだった。
医務室には、三人の生徒の穏やかな寝息だけが響いている。
レオンハルトは、眠る弟の顔と、友人の顔、そして涙に濡れたまま眠るまふゆの顔を、順に見つめた。
守るべきものが、三人もここにいる。それなのに、自分は無力だった。その事実が、彼の心を重く圧し潰す。
一方、シャノンはいつの間にかセリウスのベッドのすぐそばに椅子を移動させ、その場に座り込んでいた。
ただじっと、彼の寝顔を見つめている。時折、その小さな肩が震えているように見えた。
やがて、夕暮れのオレンジ色の光が窓から差し込み始める。
一日の終わりを告げる光が、眠る三人の顔を優しく照らし出していた。
「……先生。俺は、強くなります」
ぽつりと、レオンハルトが呟いた。
それは誰に言うでもない、彼自身の心からの誓いだった。
「もう二度と、仲間を危険な目に遭わせない。誰かに無茶をさせることもない。この国の王子としてではなく、レオンハルト・アルヴァレインとして……必ず、俺が全員を守れるくらい、強くなる」
その決意に満ちた声に、イリヤは静かに頷いた。シャノンも、ぴくりと肩を揺らす。
ミカゲとセリウスの不在は、パーティに大きな穴を開けた。
だが同時に、残された者たちの心に、新たな、そしてより強固な決意の炎を灯していた。
この悪夢のような一日が、静かに暮れていく。
夜が明けた時、彼らがどのような朝を迎えるのか。それは、まだ誰にも分からなかった。
第八話・了




