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再び、医務室は重苦しい沈黙に包まれていた。
ベッドは二つ。
一つにはミカゲが、もう一つにはセリウスが、それぞれ静かに横たわっている。
レオンハルトとシャノンが二人を運び込み、イリヤによる診察と処置が行われた。
ミカゲは過度の身体的負荷による衰弱。セリウスは急激な魔力増幅による精神的疲労。
二人とも、すぐには目を覚まさないだろうとイリヤは告げた。
「……セリウスは、僕がここに残って見ておく。まふゆは教室に戻ってくれ。シャノンもだ」
レオンハルトが、厳しいながらも気遣うような声で言った。
彼の顔には、弟への心配と、友への負い目と、そして元凶であるエドウィンへの抑えきれない怒りが複雑に浮かんでいる。
「……あたしはいい。どうせ授業なんて頭に入んないし」
シャノンは椅子に座ったまま、セリウスの寝顔から視線を外さずに答えた。
その横顔は、いつもの刺々しさが嘘のように、ひどく思い詰めて見えた。
「せやけど……」
まふゆは、二つのベッドを交互に見つめる。
ミカゲのことも、セリウスのことも、心配でたまらない。教室に戻るなんて、到底できそうになかった。
そんなまふゆの葛藤を見透かしたように、イリヤが穏やかに口を開いた。
「まふゆさん。貴女は、ご自分のことを心配なさい。顔色がひどく悪いわ。今日の午後は、このまま医務室で休むように、私から先生方には伝えておきますから」
「イリヤ先生……」
「貴女が倒れてしまっては、彼らが目を覚ました時に、一番悲しむでしょう?」
イリヤの優しい言葉に、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れたように、まふゆの瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「……うちの、せいや……うちが、ミカゲさんにも、セリウスさんにも……!」
「違います」
イリヤはきっぱりと首を横に振ると、まふゆの肩を優しく抱き寄せた。
「ミカゲさんは、貴女を守るために。セリウスさんは……そうね、彼の心の弱さが、ああいう形になってしまっただけ。貴女のせいではありません。だから、自分を責めてはだめ」
その温かい腕の中で、まふゆは声を上げて泣いた。
どうしてこんなことになってしまったのか。
どうして大切な仲間たちが、次々と傷ついていくのか。
自分の無力さが、ただただ悔しかった。
レオンハルトは、そんなまふゆの姿を、何も言わずにただ見つめている。
シャノンは、セリウスから視線を外さないまま、唇をぎゅっと噛みしめていた。
静かな医務室に、まふゆの嗚咽だけが響く。
窓の外では、何も知らない生徒たちの楽しげな声が聞こえ、それが一層、この場の悲壮感を際立たせていた。




