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教室は、一瞬の嵐が過ぎ去った後のように、異様な静寂に包まれていた。
意識を失い床に倒れたセリウス、まふゆを助けて自らも限界を迎えたミカゲ。
レオンハルトは弟と友人の間で、どちらに駆け寄るべきか一瞬迷い、ミカゲを支えるまふゆの方へと歩みを進めた。
「ミカゲさんっ!しっかりして!」
「ミカゲ!」
まふゆの悲痛な声と、レオンハルトの切羽詰まった声が響く。ミカゲの身体はぐったりと重く、完全に意識を失っているようだった。
その喧騒の中、一人の生徒が弾かれたように席を立った。
ピンクの髪を揺らし、床に倒れているセリウスのもとへ駆け寄る。シャノンだった。
彼女はセリウスのそばに膝をつくと、その顔をじっと見つめた。
いつも憎まれ口を叩き合っている相手。しかし、その寝顔は苦悶に歪み、頬には涙の跡のようなものが微かに光っている。
魔導機は不吉な光を失い、今はただの銀色の装飾品のように静まり返っていた。
「……ばか」
シャノンは、誰に聞かせるともなく、小さな声でぽつりと呟いた。
その声は、怒っているようでもあり、呆れているようでもあり、そして、どこか泣きそうにも聞こえた。
いつもの「ノセ」と呼ぶ声とは違う、ただ、一言。
その短い言葉には、あんたがこんな無茶をするなんて、なんで一人で抱え込むのよ、という、普段は素直に口に出せない彼女なりの心配が、ぎゅっと詰まっているようだった。
「さて、と……。まさか一度に二人の生徒が気を失うとはね。私の授業も、なかなかエキサイティングだ」
その静寂を破ったのは、教壇に立つエドウィンの呑気な声だった。
彼は心底面白そうに、満足げに口元を歪めながら、呆然とする生徒たちを見渡す。
「レオンハルト君、悪いがミカゲ君を医務室へ。……ああ、シャノン君も、セリウス君を運ぶのを手伝ってくれるかな?まふゆ君は付き添いで頼むよ」
その声には、教師としての心配など微塵も感じられない。まるで舞台の小道具を片付けるように、淡々と指示を出す。
その態度に、レオンハルトは怒りに奥歯をギリ、と噛みしめたが、今は友と弟の身が最優先だった。
「……分かった」
レオンハルトはミカゲの腕を自分の肩に回し、その身体を慎重に支え起こす。まふゆも反対側から、必死にミカゲの身体を支えた。
「まふゆ、お前は大丈夫か?」
「うちは、大丈夫……。それより、はよ二人を……!」
シャノンも、まだ何か言いたげな表情でセリウスを見つめていたが、意を決したように彼の腕を取り、レオンハルトに倣ってその身体を支えようとする。
こうして古代魔術史の授業は、二人の気絶者と心に深い傷を負った生徒たちを残して、最悪の形で幕を閉じたのだった。




